後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年3月31日火曜日

原さん、チアパスの美大訪問


六甲ミーツアートのアドバイザー、原久子さんです。
初めてお会いしたのは愛知の芸術センターではなかったでしょうか。
何年も前のことです。

当時は、原さんの似顔絵を後頭部に描く日が来るなんて思ってもみませんでした。
単発で消えると思っていたのが、今なお美術界とつながっているなんて!
意外としぶとく生き残っている自分にびっくりです。

愛知って何年前よ? 6年前とか?


6年とな。
小学校と同じだけの年数です。
いつの間にか一発屋とは呼ばれなくなっていました。
とか言って一発屋って知名度ある人に使う言葉でした。間違えた。一発屋を気取っていたのは自分自身ですが、それでもとにかくわたしはもう、自分を一発屋とは認めない。
ただ、最も離婚が多いのは7年目らしいし、あと1年をなんとか乗り切って、さらなる延命方法を原さんにアドバイスいただきたいです。

遅れていた飛行機にやっと乗り込むことができました。
行き先はチアパスの大学です。現地の方と待ち合わせをしていて気が気じゃないであろう先輩が、なんとか平静を保とうとして「これがメキシコや、これがメキシコや…」と死んだ目でつぶやいている様子が恐怖でした。

トゥクストラ空港に到着しました。
空港特有のものものしさは一切なく、空港職員の方が次々と記念撮影をしていかれる、アットホームなロビーです。


わたしが後頭部人気にヘラヘラしている間に、先輩たちがタクシーを手配してくれていました。

人の良さそうな運転手の方と、小1時間ほどかけて市内へ車を飛ばします。

……!!!!!

フロントガラスにめりこんでいる銃弾の痕で、眠気がふっとびました。
対向車線からいきなり撃たれたりしませんように!

銃弾への興奮が薄れて、単調な道のりに居眠りしていると目的地の大学に着きました。
と思いきや運転手の方が勘違いをされていたようで、「この大学じゃない」の先輩の言葉に再び車のエンジンがかかりました。

着きました!

版画工房です。


オープンキャンパスみたいで若返りました。


構内をお散歩しました。

建物に描かれたイラストもたのしいです。


「キャンパス」
「ユニバーシタリオ」
とだけ書かれている看板は、学校名が入っていないのが潔いと思いました。

大学のすぐ外の街並は絵のようにかわいい色使いで、見惚れてばかりでなかなか前に進めません。

こんなカラフルな所に住んでいたらさぞ美的感覚も磨かれることでしょうね。
嫌みのひとつも言いたくなります。


しかしモノクロに加工してみるとこれはこれで非常に雰囲気のある写真になって、メキシコは色だけが素晴らしいのではなかった。
あっぱれでした。




ただの細長い長方形がなぜこんなにおしゃれなのでしょう。不思議です。

グラウンドで走れば? と武内さんにトレーニングを強いられましたが、拒絶。
メキシコは標高が高いせいで、わたしは呼吸をしているだけで息苦しいのです。

不良品になってしまった体がかなしくて、ゴミ捨て場に感情移入しました。

尋常じゃない数の落書きで椅子が覆われています。
コンパスで描いたようなえぐれたひっかき傷に、とてつもなく大きなエネルギーがこもっている気がしました。

暗がりの教室に入り込んで写真を撮ったら、ブレて椅子の落書きエネルギーが放出されてるみたいになりました。

日暮れです。

ふたりとも、おなかがとても空いていました。



屋台でオレンジジュースとサンドイッチのような平たい塊を買いました。
大学に着いた時から、屋台を目ざとくチェックしていたわたしの滑らかな注文に、武内さんが感服していました。
わたしは食物が絡むと途端に注意深くなります。

ビニール袋に入った飲み物を渡されるのはこれが初めてではありませんが、その都度「おおっ」と面食らいます。
蚊がビニールを刺してくるとか、不測の事態にならないことを願うばかりです。
奪い合うように無我夢中で餌をすすっていると、先輩たちが現れてビールやポップコーンを買い込んで来られたので、慌ててビニール袋を隠して口の中のものを飲み下しました。勝手に我々ふたりだけで買い食いしたことを恥じました。


ポッポコーンも辛くするのがメキシコ流です。
香ばしい香りがアトリエいっぱいにたちこめていました。

学生の皆さんと一通り自己紹介タイム。
左端の方はオカマだっけホモだっけ、なんか「オカマ」って日本語で言っていた気がします。複雑な自我を抱えているとは思えない、はじけたキャラクターでした。

オカマが自作の版画をプレゼントしてくれて感激しました。
なんか、穴に棒が刺さってるとか、そういうオカマ的解釈をしてしまいそうでしたが、普通にとても良い作品でした。
版種は銅版かな…? 自分も版画専攻だったのに、ブツを見てもよくわかりませんでした。
大事にしようと思えない作品だとお互い傷つくので、もらってうれしい作品で心底ほっとしました。

和やかな美大訪問でだいたいがボケーっとしていたのですが、大学の講師をされている原さんを後頭部に背負っていることもあり、時折視察をするようなキリリとした眼差しになりました。
アドバイザー感を出しながら掲示物にいちいち茶々を入れるのが、エセっぽくてたのしいごっこでした。
原さん、メキシコの大学には活気と夢と、あとオカマもいてたのしかったです!
ありがとうございました!

2015年3月30日月曜日

伊藤さんと写真のこと


カメラマンの伊藤さんです。
六甲の関係者の方で、最終日に、同じく関係者の原さんといっしょに旅券を買ってくださいました。
おふたりとも色々旅行をされていて、おすすめの場所をたくさん教えていただきました。
以前、出品作家の半谷さんにお聞きして行ってみたかった、ジョグジャガルタにお仕事で行かれたこともあるそうで、もっと詳しくお話を伺いたかったです。

ちょっと寸詰まりの顔になってしまったので、縦横の縮尺を替えられないか試してみましたが、わたしの技術では無理でした。心のアプリで加工してちょっと伸ばして見てください。



メキシコシティでお世話になっている、ひろしさんとまあやさんの素敵なアトリエには屋上があって、螺旋階段が憧れの暮らしの象徴でした。

朝、もう一度屋上へ上がって、爽やかなメキシコの空気を吸い込みました。


通行人もなくまだ静かな街並に、ビタミンカラーだけが元気に朝陽を浴びています。



先輩と、ひろしさんとまあやさんと朝の散歩へ行きました。

銀行はまだATMしか開いていません。

先輩がお金を貸してくれました。

メルカドと呼ばれる市場で、朝ご飯にしました。

なんとなく手持ち無沙汰だったので、柄にもなく備え付けのジェルで手を消毒しました。

スープと、筒状のタコス(?)を食べました。
外は寒くありませんが、あたたかいスープを飲むとほっと心が休まりました。

大好きな生絞りジュースも多種揃っています。
伊藤さんは健康志向かなと思ってにんじんジュースを飲みました。繊維がうるさかったです。


アイスが夏のTシャツ売り場みたいになっていました。ストライプ柄のせいだと思いました。
わたしはアイスに興味津々でしたが他の方々は見向きもしていなかったので、食べたいと言い出せず後悔しています。

メキシコで最も敬愛されている聖母グアダルーペが、きらびやかなケースの中で厳かに微笑んでいました。
メキシコを愛してやまない日本人の先輩から、覚悟がないならグアダルーペを撮らないよう諭されていた我々は、覚悟ってなんだろう…。怖じ気づいて中途半端な写真になりました。
写真を撮ることは文化の冒涜だという考え方に、わたしは恥ずかしながら初めて触れたのでした。メキシコの、特に地方の年配の方などは写真にうつることをいやがる方も多いそうです。もちろん許可をとってからカメラを向けるようにはしていますが、後頭部ビジネスという企画そのものが気まずく思えてきました。文化を知らないって罪深いことなのだと知りました。

わたしは撮られる側ですが、カメラを構える武内さんの心労は並じゃなかったと思います。
カメラをひったくられないかという心配と、皆のペースを乱さぬよう後頭部の写真を撮らねばならない義務感と、現地の方の生活を傷つけないような配慮とで、毎日ずっしり疲れていました。

カメラマンの伊藤さんにも、プロの方の心構えやこれまで困ったことなど、いろいろなお話を聞いてみたいと思いました。


プリプリの新鮮野菜の中に、見慣れぬ形のものがあります。
アロエだっけ? サボテンだっけ?
撮影許可をいただくのに必死で、質問したのに肝心の答えを忘れてしまいました。


考え深いメルカド散歩でした。


これから、飛行機でトゥクストラへ発ちます。

余分な荷物はひろしさんの家へ置かせていただけるということで、一切合切必死で荷造りしなくてもいいのは本当にありがたいことでした。

アトリエには朝から制作に励むアーティストの姿があって、後光が差していました。

お昼の飛行機に間に合うよう、余裕を持ってタクシーに乗り込みました。

空港で、やっと日本円の換金ができました。
レートはとても悪かったですが、先輩に立て替えていただいているのがとても心苦しかったので、現金を入手できて安心しました。

あと、後頭部にウケて写真撮ろうぜと笑ってくださる方もいることに、落ち込んでいたわたしは大変救われました。

…おもしろがってくださる人がいるなら自分は、と思いました。
「それがわたしの覚悟なんだったら好きにすれば」と自分に言い聞かせると、それがとりあえずの答えになった気がして、前を向いて堂々と後ろを見せようと思いました。


気持ちは前向きになったものの、定刻を過ぎても案内がありません。
搭乗を待つ乗客のイライラした空気が16番乗り場に溜まっています。

ぽっかり空いた時間を使って、ここで伊藤さんから原さんへ後頭部をリレーすることにしました。
浮かれ気分でいた旅で、真面目な気持ちで自分たちの活動に思いを巡らせることができてよかったです。
「勉強になった」って、大体別に楽しくなかった時に苦し紛れに逃げる言い回しですが、勉強になったとしか言いようがない。そりゃあ楽しいよりも苦みが先に立ったけれども、良い勉強をさせていただけた感謝でいっぱいでした。うそ。この時はまだ感謝感謝感謝感謝と意図的に病的に繰り返さないと感謝を忘れてしまいそうでしたが、時間が経てば絶対本物の感謝になるという自信があったから、ちょっと複雑な経路を辿ってはいるけど、本当に感謝でした!

メキシコ旅行というより内面旅行になってしまった。
自分探しみたいなことに後頭部のお客さんを付き合わせてしまいました。
伊藤さんごめんなさい。
でも、日本でひとりでやれよって感じだけど、日本でひとりでではできなかったのでした。
後頭部の伊藤さんがいたから、先輩の真剣な思いがあったから、武内さんの優しさがあったから、メキシコの方の明るさがあったから、色々考えることができました。
本当にありがとうございました!! 
ありがとうございました。