髪を切りました。
シャキシャキ、武内さんがハサミを動かしながら、「美容師かあ…」と感慨深げにつぶやきました。「自分の選択肢にはなかったけど、進路決める時、もし美容学校行く仲いい子とかがいたら、わたしも美容師になってた可能性あるな。」へえ〜。わたし全くないわ。「いや、わたしもなかったんだけど、それは周りにいなかったからだって今思ったよ。」
流される自信、満々の武内さんを見て、今まさにわたしに流されて100km走ろうとしていることを考えているのかなと思いました。
流した張本人のわたしにだって、100km走らない人生もきっとあったんだろうな、とか。
——どこに行き着くかな。
あったかもしれないそれぞれの人生を夢想する甘美なひとときは、床に散らばった髪の毛といっしょに掃除機にブーン。吸い込まれて行きました。
すっきり。
セルフタイマーでふたりの写真を撮りました。
見栄え良い!
うまくいってるよ!
コマも揃ってるよ!!
「台南」と「加油」が、ふたりくっつくと「台南加油」になるところがこの漫画のミソです。
せっかくつくったこの衣装、どうせなら大会当日だけじゃなく、街歩きの段階から着てみてはどうか。
武内さんが言いました。
「当日、スタートは夜明け前だし、荷物預けたりバラバラに動くし、走ってる間は写真撮れない。出走前は人に絡まれてわやくちゃになると思う。漫画の内容とかほとんど見えないだろうし……。台湾着いたらマラソン前に撮影完璧に終わらせて、フェイスブック……、アップしようかな。ランナー全員がフェイスブックやってるわけじゃないけど、事前に宣伝できてればいろんなことがスムーズだと思う。大変なんだ。いちいち説明するの。」
わたしも良い考えだと思いました。
「おおー。でもあきちゃんやらないと思うよ。毎回それ言ってるけど毎回告知しないじゃん。」
「いや! 今回はやる! 決めたんだ! 絶対やる!!」
苦い、劇薬を飲むような表情で歯を食いしばる武内さんを見て、わたしはフェイスブックってヘビーなんだなあと思いました。
わー。がんばってね! すごくいいと思うよ! 応援するよ! 楽しみだよ。でも多分あなたやらないよ。