後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2019年6月12日水曜日

私とサウナ


3年前の、ちょうど今頃のことです。
わたしはサウナにハマろうとして頑張っていたことがありました。

サウナを嗜むと、心身がととのいアイディアが湧く。
サウナ、水風呂、休憩を1セットとして交互浴を繰り返すことで恍惚感を得られる。
サウナは創作の泉である。
そう聞いて、わたしもサウナに熱中したいと思うようになりました。

サウナを大好きな人に憧れていたので、自分もサウナーになって気に入られたいとも、思っていました。

でも、みんなみたいにうまくサウナの虜になれなかったんです。
サウナ、確かに気持ちがいいし楽しかったけど、エクスタシー状態に至れなかったんですよね…。体力がありすぎるせいか、交互浴を何セットしてもととのえなくて、やめどきがわからず8時間とか浴場にいたりして…。
サウナ行かなくてもストレスで蕁麻疹とか出てこないし、抑鬱状態にもならないし、サウナに強烈に惹かれ、サウナを欲してやまないというサウナ依存者になれませんでした。
それを自分は挫折と感じました。
自分は感覚が鈍いのかなと思うと無念で、サウナ愛好家同士がサウナを通じて結束を強めていく様子を、指をくわえてひとりさみしく見ていました。

自分はサウナーとして大成することはないと悟った夏でしたが、その秋に出た長距離マラソン、ギリシャで行われたスパルタスロンのレース中、ちょっとかじっただけのサウナがすごく効いたのです。
日中の炎天下は「ロウリュ(サウナの熱波)よりは熱くない」と思って耐えたし、エイドでは頭からかぶり水を浴びるたびに「水風呂、水風呂」と唱え、わずかに涼しいオリーブの木陰を走り抜けるときは必ず、「外気浴でととのった」と言い聞かせて気持ちを新たに入れ替えていました。
その年は自己ベストを飛躍的に更新してゴールしました。原因はサウナ以外に思い当たりません。
いつもサウナを頭に思い浮かべていたおかげで、精神的にととのいながら、リラックスした走りができたんだと思います。
より正確に言うと、サウナを思い浮かべたのではなく、サウナの概念を思い浮かべていた、という感じでしょうか。

先日、ラジオ「のちほどサウナで」の番組内でサウナーの方々が「ランニングも始めてみたんですけど、2週間で挫折しましたね〜」「わかります、ランニングきついですもんね〜。その点サウナはいい!」などとお話しているのを聞いて、世の中いろんな挫折があるんだなあとわたしは思いました。
ランニングの方がよっぽど続けやすいけどなあ……家から一歩外に出ればいいだけだし、無料だし。
そう考えてから、もしかしてサウナって体力がなくてお金がある人のための場所なんじゃ? との思いに至りました。
それまでずっと、サウナにハマれなかった自分に落胆していたのですが、普段ストレスをためている人ほどサウナーになりやすいんですって。一人の時間がないとか、花や緑や風や鳥など自然に触れ合う機会がないとか、デスクワーク続きで運動不足とか。だから、いわゆる社会で忙しく働いている人たちが対象なんだと思います。
自分は3年前の夏など、「毎日山を走ってます! 押忍!」って感じだったので、そりゃあサウナ必要ないわと今になってやっと、失笑で片付けられるようになりました。サウナで得られること、だいたい全部ランニングでまかなえていました。

レース中は、無理やりランニングをサウナに寄せに行っていましたが、そうやってこじつけなくても、ランニングとサウナは似ているところがたくさんあります。
どちらも汗をかくという点でまず同じですが、例えばスパルタスロンくらいの超長距離レースでは、昼間は暑くて夜は寒く、朝が来て太陽が昇るとまた酷暑の時間帯を迎えます。そんなふうに36時間、温度変化に晒されながら外気を浴びて走り続けていると、昇天したような空白の瞬間が時々訪れるのですが、それがサウナで言うところの「ととのった」っていうことなんじゃないかと思いました。ただ単に気を失っているだけかもしれませんが…。

最近の自分の一押しのサウナは、寒い雨の日に外を走ることです。
雨に打たれて皮膚は冷たい(水風呂)けど、体の芯はポカポカして(サウナ)、自分自身から湯気が出たり(セルフミスト)するし、交互浴を一気にすべて味わえる時短ワザです。

わざわざサウナ施設まで行かなくても、わたしはわたしの体の中にサウナを飼っていると思うことで、サウナに対する鬱屈した感情が少し和らいだ気がしました。