後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年12月29日火曜日

ねんかかる武内さん

ギリシャに行く前に、武内明子さんと合流するため熊本に行きました。

武内さんは画家です。
春から、津奈木町のつなぎ美術館で、5ヶ月間に及ぶ滞在制作をしていました。

夜にねんかかる

「ねんかかる」とは、熊本の方言で、「よりかかる」の意だそうです。

久しぶりの武内さんにわたしは人見知りしており、気軽に「あきちゃん」とねんかかれない、心の距離を感じていました(用法一例)。

所在無さのあまり、美術館へ向かう電車の中で武内さんへのお土産だった八ツ橋を食べてしまいました。
お菓子だけがいつも味方でいてくれる…。
食べ切るとおおらかな気持ちになって、早く武内さんに悪事を申告して怒られたいと思いました。
甘味がわたしの精神安定剤です。

9月19日、早起きして、武内さんといっしょに少し町を走りました。
海に山に中学校に、ずっとブログで見ていた津奈木町に自分がいるのが不思議で、武内さんの夢の中をさまよっているような、なんだかくすぐったい気持ちでした。

武内さんの滞在制作の成果を発表する展覧会初日。
この日は学芸員の柳沢さんと武内さんとの対談も予定されていました。
緊張が行き過ぎた武内さんは前日から感情を壊しており、わたしが熟睡から目覚めると、「くるちゃんがスパルタ前夜に寝られない、寝られないってイラついてる気持ちが今ならわかるよ…」と、寝不足のブスな顔でうめいていました。
そうか、あきちゃんにとってこの日は、わたしにとってのスパルタスロンなのか。
同情するしかないです。

定食屋さんで皆でお昼を食べているときにも、胸がいっぱいとかで食が進まない武内さんはついには号泣して、迫り来るトーク本番に絶大な不安を残していました。

わたしは武内さんの残飯をハイエナのように食べながら、反面教師反面教師と念じていました。
自分は、スパルタ前夜は絶対うまく寝てやるからな、気丈に振る舞っちゃうんだから!
泣きじゃくる武内さんの姿をなるべく白けた目で見ようと努めましたが、自分も大一番の前には決まって取り乱すタイプなので、人ごととは思えずみっともなかったです。

トークは涙をまじえながらも和やかなものになりました。
武内さんは時々とぼけながら、自由に観衆に立ち向かっていました。
わたしは柳沢さんのありがたい講釈を、背筋を正して拝聴しました。
自分の絵の感じ方に自信がなかったので、オフィシャルな人のオフィシャルなトークでもって、確証を得た気になりました。

展覧会自体は、あの武内さんが描いた絵だと思うとまともに見られず苦労しましたが、すこやかな気配がすみずまで感じられ、じんわりあたたかい気持ちになりました。
ただ、会場の入り口にあった、ご挨拶をかねた解説文がすごくて、筆者は学芸員の楠本さんなのですが、『そもそも武内は他者への依存心が強く、〜。』の一文には思わず目を疑いました。
静かな美術館で大笑いしてしまいましたよ。
そんな解説ほかで見たことないんだけど、一体武内さんどんな制作してたんだ、と想像すると痛快でした。
何度読んでもウケます。