後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年12月30日水曜日

わたしの後頭部

短い熟睡の後にアラームで起床。
武内さんを起こしました。
朝が苦手なはずの武内さんが一発で起きたので、どうしたの?  と戸惑うと、わたしの殺気を感じて寝過ごせなかったそうです。
ギリシャの朝食バイキングを、わたしは心底楽しみにしていたのでした。
オレンジジュース!  フルーツポンチ!  デニッシュ!  パウンドケーキ!
あ、ま、い!

胃にたらふく詰め込むと満足して、光を浴びに外へ出てみました。

日本にいると定期的に人見知りを発症してつい挙動不審になってしまうわたしですが、外国ではスイッチが入るのか、陽気なマインドを保っていられます。
外弁慶。

明るい気持ちで自動ドアの向こうに駆け出したら、機材を背負ったカメラクルーっぽい方がふたり陽光の中で談笑されていて、カチッと目が合いました。
「ワオ! お前! ウェルカム!」
回り込んで後頭部を確認され、今年はうしろの顔がないとわかると、
「オーマイガッ! ホワッツハプン!?」
何が起こったんだと大げさに嘆かれました。

えへへー?
覚えてくれているなんてすごいな。
わたしはわたしで予想外の反応に目を丸くして、次の瞬間口からこぼれ落ちた言葉は、
「完走したら後頭部やるよ!」
でした。
我ながら、思いがけないことでした。

去年は後頭部ビジネスをしながらリタイアしてしまい、ふがいなさに震えました。
今年は走るの一本に絞って、観光もしないつもりです。とにかく完走、ただただ完走することだけを考えてギリシャに来ました。

当時リタイアに落ち込み続けていたわたしを、友人が見かねて諭してくれました。
「くるみちゃんさ、大罪を犯してしまったかのように思い詰めてるけどさ、別にみんな、だれもそんな責めてる人いないと思うよ。みんなもっと普通にあたたかく応援してたと思うよ。」
そうなの……? みんな、侮蔑してるか嘲笑してるかじゃないの?

自分が性格悪いせいで、他の人も自分と同じように意地悪なんだと思い込んでいました。
良くない。
良くない発想でした。

ここに来てなお、リタイア罪を引きずって肩身の狭い思いでいたわたしに、「おいおい後頭部はどうしたよ!」となんのわだかまりもなく(当たり前か。)声をかけてくれたギリシャ人に、もう去年みたいにしんきくさい顔は見せたくないと思いました。

完走して、堂々と、後頭部ご開陳したいな。
よろこんでほしい。
絶対。