後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年12月30日水曜日

アニータ現る

健康診断書を提出して代わりにゼッケンを渡される大会受付には、時間をずらして行ったのに長い行列が出来ていました。
ギリシャおなじみのいい加減スケジュールで、遅れて受付が始まったそうです。

手続きが終わり、ソファに腰掛けていると、メガネの快活な女性に話しかけられました。

「エクスキューズミー? あなたたち去年もいたわよね? 後頭部のね?」
「サンキュー、あなたも走っていたんですか?」
「ノー。わたしはハズバンドの応援なのよ。」
「グッド。こちらも友人アキコが応援に来てくれています。」
「カーがあるの?」
「バスです。アンドユー?」
「カーよ。バスだと80kmまでしか応援できないでしょう?」
「イエス。寂しいです。(まさか? という期待の気持ち)」
「80km以降は、わたしの車にお乗りなさいな」
「(キターーー)!!しかしペースが違います。あなたのハズバンドのフィニッシュタイムは?」
「アバウト34時間ハーフよ。」
「オウ…、わたしは去年160kmでタイムアウトしているし、今年もギリギリ、36時間かと…。」
「ノープロブレム、それはその時考えましょう。」
「レアリー? ワッチュアネーム?」
「アニータよ。」
「アニータ! ナイスチューミーチュー! あなたのご親切に感謝します! サンキューフォーユアカインドネス!!」

固く握手を交わしました。

大会が出してくれる応援バス(兼リタイアバス)は、80km地点までのわずか3箇所にしか停まりません。
80km〜246kmのまだ3分の2も残されている道程を、応援の奥様方はホテルで、ネット速報が更新されるのをじりじり待つしかないのだと聞きました。

去年と同じことやっても仕方ないからね。という話はふたりでこれまでも何度かしていて、レンタカーを借りるという案も実現こそしませんでしたが話題に上ってはいたのでした。
力不足で立ち消えになっていた80km以降の課題が、アニータの申し出によっていきなり解決に向かいました。

よっぽど用事がない限り、人々の集まる空間をなるべく避けていた我々が、どういうつもりでいたずらにそこでボーッとしていたのか思い出せませんが、「座ってるといいことあるね」と言い合ったそうです。あほっぽいな。

せっかくギリシャまで来たんだから、あきちゃんにもあたらしいワクワクがありますように。退屈してほしくないな。わたしの成績の如何にかかわらず、目一杯楽しんでほしいな。
願いが不意に届いてしまったようで、ドギマギしながらも、差し伸べられた善意の手を無我夢中で握り返しました。