後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年4月7日木曜日

スタート

朗報です。
100kmも120kmも、制限時間は14時間だと思い込んでいましたが、120kmは1時間長い15時間制限でした。
なんだよ〜! じゃあ完走できるじゃん!
一気に心が晴れました。
ただ問題は、武内さんとのスタート時間が違うことです。
同時スタートで序盤はいっしょに走れると思っていましたが、最初から離ればなれ。
120kmの部のスタートは午前4時なので、午前3時25分、宿のご主人に朝ご飯を持たせていただき、出発しました。


武内さんは午前5時スタートなので本来ならばもっと遅くて良いのですが、4時スタートのわたしについていっしょに来てくれました。


会場に着くとカメラマンが大きく手を振って合図しています。チンちゃんでした。
朝からかわいいって奇跡です。


いっぱいの顔見知りのみんなと、写真を撮りました。
少し、取材みたいなこともされました。
にぎやかな会場でした。

「さっき重見さんいたけど。」
トイレから戻ると、武内さんが教えてくれました。
「なんかビニール袋着てた。ちょっと遠くにいたし、目合わなかったから声かけてない。」

重見さんは、日本を代表する陸上選手です。
幸運にもスパルタスロンでお会いでき、話が弾みました(主観)。3人のお子さんをはじめご家族に対する愛情も深く、とりわけ地域を背負って走る真摯な姿勢に非常な感銘を受けました。ほんとにすごい人ってすごぶらないよね。武内さんと言い合いました。

その数ヶ月後、ナンハンの選手名簿に重見さんの名前を見つけた時にはただもう驚きました。これまでの3年間、ナンハンに出場している日本人は我々以外にいなかったこともあります。
わたしも、武内さんも、うれしかったけれど、「でもなんかちょっと寂しいな。わたしたちの大会じゃなくなっちゃうみたいで。」武内さんが言いました。
「そうだね」と同調しかけて、「でもわたしはそういう考え方は嫌いだ」ときっぱり思いました。
自分たちだってそう思われていたと思うよ。ここだけじゃなく至るところで。過去形だけじゃなく現在進行形でも。「新参者が」って。台湾の人からは、「もっと日本人つれてきて」って再三お願いされていたのにふたりとも友だちいないから全然貢献できなかったんじゃん。やっと日本人が来てくれてとてもうれしいよ。わたしは重見さんに恥ずかしくないよう日本の一員としてがんばりたいよ。

重見さんのあずかり知らぬところで、わたしは重見さんに過度の意味付けをしていました。
ナンハンで重見さんに会えると思うことが、自分の発奮材料になりました。

漫画を描いたときには、「台南加油」以外のコマを思いつかず見切り発車で始めたため、右腕のコマが埋まらなくて「どうしよう何描こう、…はっ!」


重見さん描いた。

武内さんが唖然として、「……この文脈だと、普通ここは彼氏とか家族でしょ? 『彼氏も応援してくれてるし、よしがんばろう』って感じにしか読めないよ。まさかの『ストーカーしてる重見さんのフェイスブックです』だよ。これ重見さん本人が見たらかなりこわいよ。」そう忠告してくれました。わたしは、「でも重見さんのフェイスブック、仕事でやってますって感じですごくいいんだよ。自我が全然なくてさ……」言い訳したけど、そういう問題じゃないそうです。
なんか描いてたらますます重見さん好きになっちゃったよ〜! と騒いでいると、武内さんが「やれやれ」と「うひひ」の混じった顔で、「ターゲット発見だね」と、人聞きの悪いことをつぶやいていました。

昨夜の懇親会でお目にかかれるかと楽しみにしていましたが叶わず、声をかけられるとしたら途中の折り返しだなあと思っていました。
スタートまであと5分。
カメラに囲まれもみくちゃになっていますが、そろそろスタートゲートに移動したいです。

120kmの出走選手は皆もうとっくに整列していると思い慌てていたのですが、レーンはガラガラで、上位を狙う有力メンバーがわずかに1列、先頭に並んでいるだけでした。

あわわわ重見さんいるじゃん〜。
重見さんのすぐ後ろにつけてしまいました。
集中されているだろうなあと思うと話しかけられず、でもカメラに密着されてわーわーやっているうちに、重見さんの首が45度、回転して後ろを向きました。
わたしはかぶり物と全身タイツです。

「うわぁびっくりした!」

重見さんしゃべった!
重見さん声だした!

わー重見さん!!
わたしはすかさず「見て見て重見さん描いたの」右腕を突き出しました。

「おーすごい」

重見さん見てくれたー!
「見て見てふたりそろって漫画なの」武内さんと肩を寄せ、後ろを向きました。

「おーすごいハハハ」

重見さん笑ってくれたー!
至福!

そのときの笑顔がこちらだよ!
後に新聞に載ったやつだよ!


レース前なかなかこんな顔しないよ!
取材班的にわたしたちグッジョブです。
重見さん重見さん!!
号砲ドン、スタート。