わたしはとにかく声をかけられ、そして物資をいただきました。
サプリ、ドリンク、パワージェル。
エイドは5km置きにあって、十分なサポートです。不便はありませんでしたが、それぞれ大変ありがたく、謹んで拝受しました。
役立ったのが、武内さんに教わった中国語、「シュワイガー」です。
シュワイガーとはイケメンの意。
「謝謝、シュワイガー。」物をくれた人に主に使いました。
カタコトの日本語を話せる方に、中国語はできるかと聞かれて「シュワイガー」と言うと、困った顔で「アナタハスゴイデス」と返され、あれ? と思いました。「イケメン」って言ったらてっきり、義理でも「カワイイ」が返ってくるものかと……。
見込みが甘かったです。
7時前かなあ、後ろから「がんばって!」と声をかけられ、なめらかなネイティブ発音にハッと顔を上げると100kmトップの石川選手でした。ものすごいスピードに、「がんばってー! 石川さんがんばってー!!」と慌てて背中に叫びました。周りのランナーがこっちを見てただにこにこ笑っていて、物足りなさを感じました。全員で「がんばってー!」の合唱を送りたいところですが、そんな統率力は自分にはないのでした。
それからかなり間があいて、100km2位の台湾選手。
「ローム(若木)!」と名前を呼んで、「ガンバテ!」、追い抜き様にアミノバイタルのスティックをくれました。トップ選手がそんな!? びっくり、そしてすみません恐縮です。
背中に描いた漫画のセリフ、「我愛台湾」に対する皆のアンサーが、これらの「ガンバテ」なのかなと思うと目頭がしきりにあつくなりました。
「台南加油」のセリフの片割れ、武内さんも、今頃ガンバテ、山を走っているはずです。
マラソン中は、「台南」担当の若木と「加油」担当の武内はバラバラになって、わたしの「台南」は単体では意味を成さないけれど、続きの「加油」は自身が全身で表現しようと思いました。
「台南加油」。
必ず届く、必ず届ける。
8時46分、石川選手が折り返してきました。
見事なスピードです。
声援を送ると、視線を揺らさず前方一点のみを見つめて「あーい!」と応じてくださって、走り去ったあとには「あーい」の音だけが凛とした佇まいで残っていました。
100km女子の椎名さんが来たらなんてお声をかけようかと思っていたけれど、お会いできないまま、100km部門の折り返しポイントを通過しました。120部門は、まだまだ、ここから15km登ります。
120km部門をトップで折り返して来るであろう重見さんと、すれ違うのは10時頃だと、わたしは踏んでいました。
折り返し、なんて応援しよう。
「ガンバッテ」「加油」は他の方からも散々言われているはずだから、何かもっと他の言葉でインパクトを残さなければとわたしは思案しました。
インパクト順だと、「大好き>好き>すてき>かっこいい>がんばれ>ナイスラン」かな。どれをチョイスしよう。「ナイスラン」はおこがましいので却下。「大好き」はさすがにおっかないからやめよう。だけど「好き」だけだと叫んだ時にリズム取りにくいんだよな。「シュワイガー」の流れで、「かっこいい」が言いやすいな。
よし、「重見さんかっこいい」に決定です。
9時58分でした。
あまりにも読み通りの時間に先導の大会車が現れて、後ろに重見さんの姿を小さく確認しました。トップ! 独走! さすが!!
「重見さんがんばってかっこいい大好きがんばってー!!!!!」
ああああ、あれよあれよと、合わせ技で言っちゃったよと思いました。
すれ違う時間がことのほかたっぷりあって、尺をすごく有意義に使ってしまいました。
そしたら重見さんが、スピードはそのままに、ゆったりとおおらかに腕を伸ばした。腕が翼みたいに見えました。わたしは一瞬、この人空を翔ぶのかなと思った。
それから、ああ、ちがう、タッチしてくれるんだと理解した瞬間に手のひらがバチンと弾かれてよろけました。
ロータッチ!!
ぶほおおおお!
初めてこんなスピードでタッチしたよ!! 風圧すごかったです。速い選手はハイタッチじゃなくてロータッチなんだなと思いました。
重見さんを描いた右腕と、重見さんご本人の右腕が重なった瞬間、わたしは「我愛台湾」のことを忘れて、「日本人超誇らしい」と愛国心でいっぱいに満たされていました。