本当にこの顔でよかったのでしょうか。
ここはフアランプール駅です。
ひろさんの面白半分の顔を描かれている間わたしは、「宗教上の理由」によって安心マントに隠された、人々の後頭部がどんななのかを空想していました。
ひろさん描けました!
これぐらいしゃくれさせてもよかった気がします。いつも伸びがちなあごですが今回は縮んでしまいました。
慌てて乗ったのですが定刻発進ではなく、ギリシャ以来の感覚を取り戻しました。
座席は自由席でした。
「自由席」の英語は「フリーシート」ではなく「アンリザベーションシート」だと知人に習いました。
後頭部を見つめる子どもが不審そうに見つめています。
どちらか一方ずつカメラを向くのがかわいいです。
なかなか視線が揃わない。
この子たち全然笑わないなあと武内さんにバトンタッチしましたが結果は同じでした。
手強い相手でした。
でも、後頭部がつまんなかったわけじゃないもんねと思うと気が楽です。
何か物質をあげるとよかったのかな…何も持ってなくて……。
停車駅には憩う人々の姿がありました。
靴を脱いで完全に家化しているところが見事です。
家化は車内でも。
靴を脱ぐアジアの文化にはわたしも一票を投じたいです。
天井では扇風機がまわっていましたが、車内は熱気で蒸しています。
外の風がさわやかでした。
タンクトップのお姉さんが南国フルーツを買っていました。
金髪、グラサン、タンクトップ、谷間が揃うと何をやっても様になると思いました。
鉄道はたびたび停まり、気まぐれな速度で運行しています。
「くるちゃん! 見ないと損だよ。」
ついうとうと船を漕ぐわたしに、車窓を見てもっとタイを味わうよう武内さんが起こしてくれたのですが、いやいや映画じゃあるまいしと思って、寝た。
もったいないことをしました。
定刻の2時間を1時間近くオーバーして、電車はやっと、アユタヤに着きました。
ここが終点です。
皆、あくびや伸びをしたりして、忙しそうにしている人はだれひとりいません。
帰りの切符を入手しておこうと、観光の前にまず駅の窓口に行くと、発車の20分前に切符を販売する、予約はできないと言われました。しかし電車は1時間おき(うろ覚え)に運行があり、電車がなくて日帰りできないという可能性はなさそうでした。
確認して、安心して観光に走り出ました。
外へ出るとすぐに観光客を待ち受けるタクシーに熱烈な勧誘を受けましたが、我々は自転車での遺跡巡りを考えていたのでお断りしなくてはなりません。
しかしパッと後ろを向いて後頭部のひろさんを見せると、皆、勧誘どころじゃないというようにカメラを向けて笑って解放してくれました。とっておきの武器でした。
レンタサイクルのお店は駅の目の前にいくつかありました。
パスポートのコピーを預けて、すきな自転車を選びます。
100円くらいだったかなあ。
ガイドマップもくれました。
これを自転車の前かごに洗濯バサミで留めてくれます。
見どころの、番号1から順にまわることにしました。
まず目指したのは、Wat Yai Chaimongkhon。
なかなか辿り着けません。
地図を見せて町の人に訊くと、親切に教えてくれました。
タイも英語はほとんど通じない。ジェスチャーオンリーです。
言われた通りに右に曲がってまっすぐ行くと、背の高い仏塔が見えました。
着きました!
武内さんが「ここ来たことある」と言いました。
7年前にお姉さんと来たことがあるそうです。
「いいなあ。」と言ったら、その反応おかしくない? と指摘されました。
「今いるじゃん。」
ドラえもんが二体並んで備えられていました。
異国情緒もへったくれもなかったです。
観光地とはいえ、地元の方々にとっては日常の信仰の場であるようで、何かローカルルール(って言うのかな)にのっとった礼拝が行われていました。
真似しようとしたのですが及ばず、一礼してすごすごと場を後にしました。
あかるい日差しに花々の暖色が映えます。
と、思ったらお花の向こうには唐突なスケール感で仏さまがおすわりになっていました。
セキュリティが甘いからでしょうか?
仰々しくお堂に入っていたり柵で囲われていたりせず無防備に外気にさらされているせいか、なんとなく人工物という感じがしません。
花=自然物、
電柱=人工物、
仏像=人工物+自然物
というような感じを受けました。
じゃあ、後頭部は自然物+人工物…?
観光客が多すぎないのも非常にいい感じでした。
塀の向こうからのぞく仏様の、煩悩を捨て去った穏やかそのもののお顔立ちですが、個性的なヘアスタイルが台無しにしていると思います。青バックにシルエットのほうが強すぎて表情に目がいきません。
はなわです。
仏塔の内部には、柱に金箔を貼っていいよ、みたいなサービスがありましたが、有料だったのでご利益はないと判断して参加しませんでした。
塔のてっぺんから見下ろしたところ。
フレームにおさまりきらないぐるりにもずっと、仏さまが整列されています。
結界がなく、すぐそばに近寄って触れることができるので親近感が湧きます。
仏さまは後頭部もありがたい感じでした。
ずっとここに居たいくらいですが、自転車やさんにいただいたマップに記された番号は40近くあります。後ろ髪を引かれながら次の見どころへ移動することにしました。
薄れてしまったひろさんの顔も描き変えます。
のんきに始まったアユタヤ巡りでした。
ひろさんありがとうございました!