3月東京で、電車を降りて坂道を歩きながら、「♪このきもちはなんだろう」を武内さんと口ずさんでいたのでした。
南横から帰国したばかりのふたりは、まだ完走の余韻をひきずってどことなくはずんだ気持ちでいました。
ふたりとも曲をうろ覚えだったためワンフレーズ歌ったところで必ずひっかかってしまうのが気持ち悪く、スマホで探し出して再生しました。
タイトルは「春に」でした。合唱曲です。学校の音楽の教科書にのっていました。
木漏れ日に、それぞれの影を隠して歩きました。
「初めてフルコーラス聴くよ!」
はじめは興奮していた武内さんがやがて無言になったので、ふと顔を見るとなんと涙ぐんでいて、思わず「ええっ!?」と素っ頓狂な声が出ました。
何!? センチメンタル!?
ちゃかす間を与えず武内さんはガッとわたしの腕をつかんで、「台湾一周しよう!!」切羽詰まった様子で言いました。
スマホから流れる合唱は2番に入っていました。一拍置いて、わたしはとてもうれしかったです。
マラソンでも展覧会でもなんにしても、助けを求めるのはだいたいわたしのほうで、武内さんから「あの大会出ようよ」とか、今まで、なかったです。なんとなく、これからもないもんだと思っていました。えー、あきちゃんそういうこと言ってくれるんだと思うとこっちこそ泣きそうでした。
「いつする!? いつ一周する!?」
本気っぽい武内さんのやる気が、春の魔法じゃないといいなとわたしは思いました。木漏れ日の緑地を抜けたら記憶もろとも消えてしまいそうな、光の環の中にいました。
それで、漫画のテーマは「夢想環島(モンシャンファンダオ)/わたしたちの夢は台湾一周です」に決まったのですが、描いたことで互いに満足してしまったのか、以来一度も台湾一周の話、出てないです。
消えたかな。
「夢想/環島」
わたしの担当が「夢」だの「想」だの、パステルカラーな漢字が揃っていて気恥ずかしかったです。
『夢想』のバランスを他で取ろうとして、背景の表現が過剰におどろおどろしくなりました。
246kmのコースは、台中をスタートして観光地のタロコがゴール。
「走りながら泣いて、走り終えたら笑う。心配しないで、わたしは元気です。」
「自己最長距離に挑戦!!!」
「106km」
「一緒にがんばろう」
「一起加油!」