淳子さんは、涼子さんと連盟でお写真を送ってくださいました。
お二人連続でお連れできたらよかったのですが、まじめにビスケットクジを引いたせいで少し間隔があいてしまいました。
淳子さんが、描けました!
このホテルに泊まるのも今日で最後です。
朝食バイキングがとても豪華で、何を食べようか毎朝起きるのがたのしみでした。
ごはん類もパン類も麺類も点心も、選び放題で幸せです。
最後に悔いのないよう食べなければと意気込んでいたのですが、この日は喉の痛みのため食いしん坊への気力が削がれてしまっていて、かなり常識的な食べ方にとどまりました。
PM2、5だのなんだの、北京の空気が最悪だとかねてからメディアでは騒がれていましたが、頭から鵜呑みにするのもどうかと思って信じるのを保留にしていたのでした。
ただ、3人全員が喉をやられたことを考えると、確かな統計がとれるほどではないものの、今のところ100%の確率で我々はPM2、5に完敗しています。
身を持って実感してから態度を決める、というのがやりたかったことではあったので、目的はきっちり果たせたのですが…。
北京…ナメててすみません……。
やるせない思いでぼーっと窓の外を眺めていると白い影がふたつ並んでいるのが目に飛び込んできて、慌てて庭に走り出ました。
アヒルでした!
これが北京ダックになるのか…と思うとなんとも言えない気持ちに……。
少なくとも朝食会場にはアヒルは出ていなかったはずです。
淳子さんの名前を書いてアヒルに教え込もうとしましたが、全然見てもらえなかった。
行く末は北京ダックか、それともペットとして名前などつけられ可愛がられているのか。
彼らの未来に思いを馳せながら、そのまま広い庭園をぐるっと歩いてみました。
《金メダル》ってオリンピックの成績かと思われますが、極めて簡素な杭に書かれているためどうも信じる気になれません。もっとすごそうな支持体に書いてもバチは当たらない気がしますが、これくらいの素っ気無さが日本的なのかも(ここは日本の系列ホテルでした)。
滝まであることには驚きました。
10分散歩するだけで十分な小旅行ができて、ホテルひとつで一国家みたいだと思ったのですが、今思えば、もしかしたらこの庭園も日本を模したものなのでは…。
国内旅行までできてしまいました!
しかしせっかくの北京です。
ガイドブックを片手にホテルを出発しました。近所にあると思われる、天壇公園を目指します。
横断歩道の白線の間隔は今まで見た中で一番広く、たまに意識する「白線しか踏まない」ルールに乗っ取って歩くと大変なことになりそうです。
朝からなんとなく熱っぽかったわたしには、街の顔もゆるんで見えました。
しばらく歩くと目当ての日壇公園に到着。
太極拳をしているグループがいくつもあって、邪魔しないよう遠くから見物しようとしたら「こういうの誰でも勝手に参加していいんだよ」と武内さんが教えてくれました。
自由参加じゃなかった場合に備え、パッと立ち退ける位置でおずおずとポーズ。
写真では中国文化にすっかり馴染んでいるように見える後頭部の淳子さんですが、前のわたしはマスクで防備しているせいで息苦しく、片足立ちなどポーズをとるのも一苦労です。
観衆が、なんだなんだというように数人、後頭部の写真を撮っていきましたが、じりじり痛む喉のせいでサービスするのが辛く、性格まで刺々しくなっているわたしはかなり攻撃的な気持ちで、見てんじゃねえよコロス、などと、後頭部の淳子さんとは到底似つかわしくないひどいことを思いました。
ここきれいだね、いい写真撮れそうだね、と座ってみたのは、写真より何よりもう立っているのがしんどかったから…。
そう思った自分が慈悲深い御心の持ち主のようで感動しましたが、そもそも上から目線なのが間違っていました。
一刻も早くホテルに帰って横になろうと、帰り道は無言でずんずん歩いたのですが、武内さんや父に、不機嫌と勘違いされないかが心配でした。もっと体がしんどいことを大げさにアピールしなくてはと使命感に駆られました。
いつも、やんややんやと囃されて道行く人々に撮影される後頭部も、今日は前のわたしがマスクをして、目付きでも周囲を威嚇しているせいか、ほとんど声をかけられません。
後頭部があるだけではだめなんだな、前の自分も、全力でオープンしていかないとだめなんだな、と、意義深い発見ができました。
武内さんはわたしをダウンさせるPM2、5の恐ろしさに衝撃を受けていましたが、原因は本当のところはわかりません。
体調管理の甘かったことを悔やみながらホテルをチェックアウト。
写真の嫌いな父が、あんたたち並びな。と、自ら写真を撮ってくれたのが印象的でした。
マスク着用のため人とはあまり交流できませんでしたが、アヒルと触れ合えことがせめてもの救いです。
小さい頃読んだ「ニルスのふしぎな旅」で、ニルスとともに旅をするのが白くて賢いアヒルでした。何度も読み返した大好きな本の古い友だちと再会したようなよろこびがありました。
けれどもそのアヒルの名前を思い出せなくて調べてみたら「ガチョウのモルテン」とか言ってアヒルじゃなかった。
こうなってくると、わたしがこの日触れ合った鳥はガチョウなんじゃないかという疑いも出てきます。
もはや北京ダックがアヒルなのかどうなのかも自信がなくなってきました。
アヒルたち(と仮定します)もわたしを見て、「この人、前が本物なのか、後ろが本物なのかわからないなあ」と話していたならいいのにな、とメルヘンなことを思っています。
淳子さん、ありがとうございました!