後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2014年11月17日月曜日

なみこさんと王府井

左のお姉さんがなみこさんです!

八重歯が特徴、というチャーミングな口元はこのお写真では写っていませんが、はじける笑顔が印象的でした。
ありがとうございます!
いっしょに、旅へお連れします!

予定をぎちぎちに詰め込んだため、時間に厳しく拘束されている今回の旅行では、場所と場所をつなぐ交通手段に頭を使わなくてもいいぶん顔を描き変えるタイミングに苦労します。

揺れる車中は絵を描くのに適した環境ではありませんが、移動時間は貴重な変身タイムです。

八重歯も丹念に再現しました。


松本さんから、なみこさんに、変身です!

車を降りて、まずはお茶屋さんに連れて行かれました。
この頃わたしは一日の段取りをきちんと把握できておらず、ガイドさんの後ろをぽかーんと追うばかりです。
 
言われるがまま、座席へ案内されました。
巻き込まれるように試飲会が始まりました。

ちいさなカップに、お茶を注いでもらえます。

チャイナ服のお姉さんは抑揚を一切つけない平板な日本語でお茶の解説してくれます。話し方に特徴がありすぎて、内容はほとんど頭に入ってきません。

丸暗記したに違いない説明文を、無表情で超ビジネスライクに唱えてくれました。

お茶はどれもとてもおいしかったのですが、わたしは味よりお姉さんがほうがよっぽど気になりました。
仕事以外では、プライベートではいきいきした女の子なのだろうか。実は演劇やっていて、愛の言葉を叫んだりとか。このお茶セミナーは演技派で鳴らすお姉さんの一世一代の大芝居で、実は「やる気ないカタコトニホンゴ」の実演中なんじゃないか。

演技なのかと疑われるほど、ちょっとありえないぐらい極端な淡白さを貫いていたお姉さんは、最後に「コレカラオモシロイモノミセマシ」(これから面白いものを見せます)とさっきと変わらない死んだ目のまま言ってきて、うそだあ。
笑いをこらえてお姉さんの手元を見ていたら、陶器の人形からおしっこ(お茶)がぴゅーって飛んできて、意表を突かれて笑いが暴発しました。

本当だー!  おもしろいものを見せてもらった!!!!!

こちらのリアクションにもお姉さんは冷め続けていて、芯が通っていました。
「コノ人形ハ売リ物デハナイ」と宣言されて、純粋なサービス精神の元、特別に私的な持ちネタを披露してくれたのかなあと思うと胸がキュンとしました。

しかしそのままお土産やさんに誘導され、あくまでビジネスとして商品を販売され、武内さんの「高いよ」という冷静な忠告にも関わらず父がカードに物を言わせてけっこう買った。

我々がお茶を購入してもお姉さんの表情はゆるみませんでしたが、レジでおしっこ人形をプレゼントしてもらえて、そうかおしっこ人形は景品だったのかとやっと全てが理解できました。

ありがとう。

この、超高層ウンチみたいなふたつの塔はプーアール茶のかたまりで、素晴らしい香りがします。

ここでも後頭部は西洋人に大ウケでしたが、お姉さんの死んだ目を甦らすことはできず、わたしはこれから謙虚に生きようと思いました。

茶を買い終わったわたしたちはお茶屋さんから用無しになり、グルメ街、王府井(ワンフージン)に移動しました。

横浜中華街みたい!  横浜行きたかったんだよなあと思わずスキップしてから、あっ、ここ中華街の本家だと気づいて、「横浜中華街」と口に出して言わなかったことを神に感謝しました。


中華街には様々な屋台が並んでいたのですが、何に驚いたって、虫が、虫が…。


虫がカラリと揚がっていたのです。
サソリとかハチとか幼虫とか、ああああ


おもしろい映像の撮りたい武内さんは、もちろん食べるでしょ?  と涼しい顔でわたしの背中を押すのですが、わたしは決意ができません。
虫を怖がるキャラじゃないのはよくよくわかっているのです。しかし怖いものは怖いんです。

武内さんは父にも勧めていましたが、父も、一生戻らないんじゃないかと思うほど顔面を激しく歪めて肩を震わせ、全身で拒絶を表現していました。
あまりのパフォーマンスに冗談だと思って最初は笑っていた武内さんも、「え、本気…?」と引いていて、父が冗談を言ったことなんてないじゃない…。

ごめん、あきちゃん、わたしも、勇気が………。

武内さんのがっかりした顔に敗北感を抱きながら中華街散策を再びスタートさせました。
後頭部のなみこさんはアイドル並の人気でした。

止まると人が集まっちゃう。
とかいう勘違いアイドルみたいなことを本気で考えながら笑顔を振りまいてスタスタ歩いていたその瞬間、ハッ!  と何か、本能レベルでの懐かしさを感じて足を止めました。
 
後頭部!!!!!

後頭部が、たくさん……!!

わたしの、わたしから失われた後頭部がここにこんなに……。

夢をありがとう。
いつまでも見ていたい景色でした。

中華街には、虫のお店が1店舗だけじゃなくたくさんあって、往復して何度か見ているうちにだんだん虫に慣れてきました。

いけそうな気がした。

まずもちろん、なみこさんをびっくりさせたいと思ったし、なみこさんの回の動画づくりをする、武内さんが少しでも楽になるなら、とも思いました。
何かひとつ光る場面があれば、それを核に映像進められるから…。

武内さんに認められたいと、わたしは強く思ったのでした。

「あきちゃんわたし食べる」

悲壮な覚悟で、言いました。

一番見た目におぞましい、足のたくさん生えた、うおおお今書いていても震えが止まりませんが、サソリを、サソリを…串に三匹ぶっ刺されて黄金色に輝くサソリを、買いました………。

成り行きを多くのギャラリーに注目されながら、精神統一をしてからブツに挑みたいわたしは、中華街を小走りで抜けて少し落ち着いた広場まで行きました。

なみこさん、力を、力をください……!

っ!!!!!


食べてみたらおいしかったなんてことなかった勇気を出して良かった勇気を出して良かった勇気を出して良かった、でももう多分できません二度と…。

あきちゃんは平然としていました。
友人が立派で誇らしいです。

知人へのお土産を買いに入ったお菓子やさんでは後頭部をかつてないほどの歓喜でもって迎えられ、サソリをクリアしたわたしはもはや無敵で、なみこさんとともに幸せな時間を過ごしました。

しかしあまりの人気に収拾がつかなくなり、時間がないから!  と振り切ってダッシュでお店をあとにしました。

決してカメラを向けるな、とガイドさんからきつく言い渡されて恐れていたポリスにも、後頭部をきっかけに話しかけられ、どこから来た?  ジャパン、など、笑顔を交えて(!)会話ができたことも忘れられません。

なみこさん祝杯をあげましょう、の一枚です。

なみこさんありがとうございました!