六甲ミーツアートの最終日が終わりました。
この「後頭部ビジネス」は旅自体も旅のご報告自体もまだまだ途中なので気を抜いている場合じゃないのですが、撤去を終えた後、すこーんと虚脱感に見舞われました。
最後の日、今年六甲に滞在されていた作家の三宅さんとお話しました。三宅さんは開幕時と比べるとひげもじゃの頬が明らかにこけて、憔悴されている様子でした。
滞在つらかったでしょうー!!
駆け寄りそうになりました。
おいたわしい……。
心底案じてはいるのですが、同じ辛さを共有できたことへのよろこびがゼロだったかというと嘘になります。自分も昨年滞在していた者として、大作家に先輩風吹かせてきました。いい気分でした。
《滞在きついあるある》で盛り上がり、理解者ヅラして三宅さんの心の闇をにこにこ覗いていると、「若木さんは元気そうだね。開幕の時はものすごく落ちていたのにね」と言われて、何のことだろう。だれと間違われているのかなと思いました。
それから少しして、そうだそうだ当時は夏の制作道場が終わったばかりで三宅さんの前で泣いたりしてしまったんだった! と思い出し、それをあっけらかんと人違い扱いした自分の忘れっぽさを頼もしく感じました。なんなら三宅さんも泣いてくれないかなと思いましたが、「先週泣いたから今は泣かない」とのこと。
我々の行き着いた結論は「みのむしの人すごい(六甲滞在の歴史をつくった初代大賞受賞者)」で、わたしはなんとなく敗北者のような気持ちで六甲とお別れしました。
六甲ミーツアートがあったから生まれた「後頭部ビジネス」でした。
自分で思っていたよりもずっと、六甲のことを考えていた2カ月半だったんだなあと思います。
よっしゃー解放された! オラオラオラ!! と、ぐっと背もたれにもたれかかったら、背もたれが壊れて自分だけ後ろにばたんと倒れてしまったようなそんな心もとない気持ちです。
日記の更新が遅くなりました。
書いては消し書いては消しというジャコメッティみたいなことをしていたら文が進まず、「喪失感があるということはがんばっていた証拠だよ」みたいな、やさしい人が言ってくれそうな甘やかしのもと、ブログから逃避していました。
ジャコメッティを引き合いに出すとかいうおこがましいことをして自分の首を絞めてしまいましたが、書きます!
最終日の六甲には京都から走って行きました。
後頭部には、昨年からずっと担当してくださっている関さんの顔を描かせていただきました!
京都駅で記念撮影。
駅は観光客でいっぱいです。
たぶん真面目に走ったら六甲まで8時間くらいで着くと思うのですが、寄り道をしながらだらだら走っているのでなかなか行程が減りません。
眠い。
なくなりそうな充電を気にしながら朝を迎えました。
六甲ケーブル駅の右手に、山上までのハイキングコースがあります。
ハイカーの方が何組かいらっしゃったのですが、後頭部の顔で驚かせたくないと思うとなかなか抜けず、かと言って休むと体が冷えてしまいます。ペース配分が難しかったです。
この階段を上りきると山上駅です。
植物園はここからさらに2kmほど上ったところ。
行って、何をすると具体的な内容を決めていなかったので、もっと遅く着いたらよかったなあと後悔しながら歩きました。
結局、関さんからお電話をいただくまで山荘でぐずぐずやっていたのですが、その時山荘でお会いした三宅さんの弱りっぷりにお力をいただいて、やる気が出ました。
植物園に着くと思いがけず、関さんはじめスタッフのみなさまが「おかえりなさい!」と迎えてくださって感激。がんばらなくてもいいや、と少し思っていたことを反省しました。
関さんそっくり! とみんなに後頭部を笑ってもらえたこともうれしかったし、関さんご本人も「自分はもっとかわいい」という当然の感想を言わずにむしろ後頭部の顔に表情を寄せてきてくれて、プロ彼女ならぬ《プロ後頭部》と命名したくなりました。
最高にありがたいモデルでした。
関さんの衣類をお借りして全身モデルになりきる初の試みも。
いい匂いの洋服に汗の匂いをプラスしました。
六甲の初日に来てくださった方がこの最終日にも顔をみせてくださったり、以前ご一緒した作家の方がお越しくださったり、会いたい人に会えてわたしはとても幸せでした。
去年の風船のことを覚えていてくださるお客さんもたくさんいて、感無量です。
わたしは特別なことを何もせずただ後頭部を晒していただけだったのですが、『自分が居る』ことのパワーというか…自分さえ居れば他のすべてのことをごまかせるから、滞在がつらいのは当たり前だがそれ相応の効果はやはりあると思いました。
植物園まで来てよかった、よろこんでもらえてよかったです。
夕方になると植物園は恐ろしく冷え込み、後頭部を中心にわたしは凍えました。
朝と比べて後頭部の顔色がどんどんずず黒くなってきている、と関さんが教えてくれました。
今までそんなに高速で変色したことはなかったように思います。寒いと皮膚を守ろうとして発毛のスピードが速まるのではないか? 反論を予期しての仮定だったのですが、だれにも否定されませんでした。
「樹木になる」という当初のコンセプトはほとんど浸透しませんでした(自分も忘れていた)が、後頭部の関さんパワーで、環境に適応する樹木的生命力をお見せすることはできたと思います。
映像制作者の武内明子さんはこの日は来られませんでした。
お客さんに「映像もみたで〜。おもろかったで〜。なかなか飽きひん映像ってないよなあ。」と誉められると、いやいやそれほどでも、と謙遜しそうになりましたが、別に身内じゃないから受け入れていいのか?
最終日をともにしてくださった関さん、作品をご覧になってくださったみなさん、スタッフのみなさま、お世話になりました。
本当にありがとうございました!
ワカキ撮り計画のふたりを今後ともよろしくお願い致します。