後頭部を描き変える場所に困って、購買のとなりのトイレに入りました。
外は寒すぎました。
電気壊れてんじゃないの? と言いたくなるぐらい暗いトイレで、描きました。
簡潔なメール大賞、さえこさんです!
描けました!
髪型に限界がありましたが、後頭部にすごくしっくり収まって、親しみを持てました。
窓際の暖房のそばからいつまでも離れられません。
大学の中にいると学生気分になるので、ぐずぐずしてしまうのを正当化できました。
何人かの学生に後頭部を撮られました。
全員足が長く、女子はかわいく、スカウトマンじゃなくても垂涎の場所でした。
テニスコートを使って、地球儀のビーチボールでバレーをしました。
足下は、透明度の高い海です。
ただし記事は3年前のもので、「島には何もないと聞いていたが本当に何もない。唯一あったのが軍事基地。」とのこと。
今では大学もできているし、橋も通っています。
ここ数年で一気に栄えたようです。
船に乗りたいわたしたちは、釣り人に船の時間を聞いてみましたが、ホワットタイムも、シップ、ボートも、……セーリング、クルーズ…。言葉が通じません。
メモ帳に絵を描いて筆談すると、船はない、バスだけだ、というお答えでした。
「アフトーブス、アフトーブス!」
アフトーブスはバスを意味するロシア語です。何度となく繰り返されたやりとりの中でおのずとわかってきました。
教材じゃなく生活から言語を学ぶ、赤ちゃん以来の経験でした。
尋ねると、「これこれ!」と、魚らしくないキャラクターの生物を見せてくださいました。
…もらってもね。
海に帰そうよ。
ああ、動かないわー。
と言って女性は去り、今のなんだったんだろう? 残ったふたりは茫然と立ち尽くしました。
……。
いじめ…ではないよね?
うん、純粋な応援だよ。
でも、すごいたのしんでね。
……いきいきしてたよね。
…。
どんぶらお、大丈夫かな?
……。
……。
動いた! 動いたよ!
生きてるね!
助かってよかったね!
少しずつ動き出した生き物を「どんぶらおー! 元気でねー!」と見送ると、少し体があたたまったような気がして、でもそれはどんぶらおとの出会いのためではなく、腹の底から発声したおかげだと思われました。
一見雑に思えた中国人女性の行動も、水中の生き物であるどんぶらおを早く海に帰すための性急さだったのではないか、彼女のほうがどんぶらお思いだったのではないかと話しましたが、でも入水してから棒でつついている様子はやっぱりただのSの人にしか見えませんでした。
大学に引き返すと、あんなに探していた食堂が何件もありました。
レストランを見つけ、念願の学食にありつけました。
あたたかい食べ物がしみじみうれしいです。
あ、そうですでもさっきは中国の女と話したし、あきちゃんは中国語しゃべれますよ!
選択肢を狭めたくなくてどう答えようか迷っていると、なんと「ワタシハ日本語ヲ勉強シテイマス」と言ってきてくれて、恋が生まれる絶好のシチュエーションでした。
(というのが2ヶ月たった今のわたしの記憶だったのですが、事実は、女の子が習っていたのは日本語ではなく中国語だったそうです。それで、武内さんが中国語で少し会話をして、ロシアにいるのに、ロシア語でも英語でも、母国語の日本語でもない、中国語で話ができるなんてすごいなあと思った、という話でした。実際に中国語で話したのは武内さんだったのですが、話しているシーンがなんとなく脳内で自分に置き換わって、このような記憶の改ざんにつながったようです。「ワタシハ日本語ヲ勉強シテイマス」とまで言わせといてひどい。すごい、無意識のうちに超さみしい人な創作をしていることが浮き彫りになって、落ち込んだ。)
ロシアの照明がどこも薄暗いのは経済的な理由からだと思っていたのですが、女が美しいからじゃないの? という新説が浮かびました。
以下、仮説を並べますね。
•明るい照明でアラを飛ばさなくてもパーフェクトな色白だから、明るくする必要がない。
•女の美貌から放たれる輝くばかりのオーラが暗がりを照らすため、照明を必要としない。
自分で思いついておきながら、日本に帰りたくなりました。
わたしも光がほしい。
極東連邦大学。大層な名前です。
2012年9月にロシアで初めてのAPEC首脳会談がルースキー島で開催、それに伴って、世界最長の斜長橋ルースキー橋、そして極東連邦大学が建設されたそうです。
あとで調べた。
2013年には島内に世界最大級の「沿海地方海洋水族館」も完成予定……って、2014年の今、水族館はどこにあったんだろう。ちっとも知りませんでしたが、でもどんぶらおと交流できたので悔いはありません。
バスでは眠りこけていたわけではないのですが、どこまで乗っても一律料金というお得感になんとなく気迫が欠けて、降り損ねたと気づいた頃にはとんでもなく遠くまで来てしまっていたようでした。
まずいことになったと思いながらそのまま乗っていると、終点で止まったバスはそのままUターンして、わたしたちはまたルースキー島に向けて出発することになりました。
我々のやりとりを見ていた乗客(英語不可)の方々と運転手が、何やら議論しています。そのうちのひとり、厳しい顔をしていたマダムが、携帯でご家族(?)と話し始めました。早口に交じって、アフトーブス、と聞き取れます。電話を切ると、他の乗客に、「わたしにまかせて」と言い放ったようでした。心配無用、というようにこちらへ向けて目配せしてくれた彼女が頼もしく、全幅の信頼を置いて、わたしたちはバスに揺られました。
質問しますが、言葉が通じません。
マダムもいっしょにバス待ちをしてくれています。
わたしたちの願いは、「たまたま帰りの方向がいっしょだっただけ」でありますようにというその一点に尽きました。本当はここから余裕で歩いて帰れるぐらい、生命力あるんだよなあ。すごく困っている旅人だと思われてるけど、実はちょっと普通じゃなく強いというのが、申し訳ない限りでした。
全然、わたしたちは待ち時間を満喫していますという気持ちで、マトリョーシカを取り出して遊んでいると、業を煮やしたマダムが、「いくわよ!」とタクシーを止めました。
ひえー、待つのに飽きて遊んでたわけじゃないんです! と慌てましたが、マダムは我々を後部座席に押し込んで自らは助手席に座り、運転手に猛烈な早口で行き先を指示しています。
マダムの姿が見えなくなるまでわたしたちは何度も何度も手をふって見送り、女の人にやさしくされるって特別にうれしいなと思いました。ゴッドマザーでした。
人と関わると、人以外では補えない充足感があります。
シャワーの温度は不安定でしたが、満足度の高い一日でした。
昨日拾った段ボールで、マトリョーシカの簡易変身グッズを制作して、寝ました。
当初は、さえこさんのお写真の背景の居酒屋に倣って、繁華街でバーに行こうとか計画していたのですが、バス乗り過ごし事件のために実現しませんでした…。
さえこさんごめんなさい。
不思議な旅をありがとうございました!