後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年1月6日火曜日

櫛野さんとコートーブ


ふくやまアートウォークでお世話になりました、ディレクターの櫛野展正さんです。福山市にある鞆の津ミュージアムでいつもパワフルな企画をされています。

アートウォークでは、まぶたに目をつくる「目描きます!」プランにも参加して、宣伝に一役買ってくださいました。

櫛野さんの似顔絵は、「角度があって難しい」と文句を言いながら描きました。
なかなか似ませんでしたが、おかっぱを斜め分けにスタイリングするとなんとか格好がつきました。

「あの壁かっこいい」と、激しいデザインに感心したら、本物の壊れたやつでした。

これも嘘みたいな有り様で走っていてかっこよかったです。いつからこの状態なのかを知りたいです。


飲食店や食料品店、雑貨店などあらゆるお店が少ない中、久しぶりにお店を見つけました。
食器や台所用品を扱うお店のようです。ポップな看板に反して、中はシンプルにまとまっていました。

お店は少ないですが、公園は豊富にありました。おちゃめなデザインが楽しいです。



背もたれ付きのシーソーは高級感がありました。

的当てをして遊びました。

的リョーシカ…。
遊び道具に、と日本でマトリョーシカのカードを仕込んできたら、偶然にも本物の的に会えたのでした。日本の公園で的当てはあまり見かけませんが、ロシアの子どもたちは、矢を何で代用するんだろうと疑問に思いました。わたしたちは小枝を投げて遊びましたが、当たっても痕跡が残らないので判定が難しかったです。

道路も遊び場になっていました。
ロシアにはロシアの「けんけんぱっぱ」があるんだろうなと思いました。


「櫛野さんのク、シ!」
9と4をぴょんぴょん踏むと、武内さんが「おおすごい!」と誉めてくれたのですが、続く「ノ」は数字に置き換えられず照れ笑い。


「同じシルエットのだるまがサイズ違いになっていたらマトリョーシカになると思うんだ!」
思いつきでつくってきた版画を、階段に並べました。
遠近法で「サイズのグラデーション」が表現できるのではないかと思ったのです。
……結果、遠近感をそんなに効果的に使えなかった。やっぱり同一線上に置いた上でサイズが違っていたほうがかわいいと思いました。
もしくは、逆ならどうかな。本物のマトリョーシカを小さい奴から手前に並べていったら、階段の遠近感に反してマトリョーシカは同一サイズという、トリッキーな世界になるんじゃないだろうか。

などと考えながらアイディアにふけっていると、後頭部を見つけた地元のハイな若者が「クレイジークレイジー!」と駆け寄ってきました。

ポーズがステレオタイプなパーティー野郎でした。
対する櫛野さんの目線は超クールで、すごいギャップです。
正面のわたしはというと、若者のハイテンションに圧されないよう激しいオーバーリアクションで応酬しました。

全員言葉につかえつかえしながら、なんとか適当な英語で会話をします。
わたしたちは日本で、観光、ロシア、初めて。美術をやっていて、…。
若者に名前を問うと、
「マイネームイズ『コートーブ』」
って、ハッ? 今なんて!?
「コートーブ!」
……後頭部だと? うそでしょ? 後頭部はわたしなんですけど!!
あまりの偶然の一致に恐ろしくなって、武内さんと顔を見合わせました。
わたしたちの耳が壊れたのかな。
本当にコートーブなのか確かめなくてはと、メモ帳に筆記してもらいました。

彼のペン先が動くのを、固唾を呑んで見守ります。

「K」
うん、ケー!

「O」
うん! オー!

ふたりのうわずった声が揃います。

「T」
ティー!!

「O」
オー!!!

「F」
あ…。

「F」
エフ、かあ〜。
なあんだあ〜! あははははー!
 
コートーブ、じゃなくてコートーフでした!!
でも、Fも唇を噛んで発音するからVと似ていて、ほぼ「ブ」でした。
ニアミス!!

「俺の名前をロシアンツイッターで探してくれよ」と、IDも書いていたのですが、スペルがわからず首をひねっている様子がかわいかった。悩んだあげくのツイッターのスペルは「twiter」とtがひとつ抜けていました。それから、本筋とは無関係にいたずら書きをしている様子が自分の姿と重なって、わかる……わたしも資料についつまらぬ絵を描いてしまう…。でもよく見たらコートーフの描いたネコの耳からは二本の毛が生えていて、なんかすごい。変でした。全然かないませんでした。

ハイなまま一度去りかけたコートーフはまた引き返してきて、「これからオールナイトでダンスすんだけどトゥギャザーしようぜ」と我々を誘いました。
ああああ…。あきちゃん、これ、あぶないやつ? あぶないけどおもしろいやつ? 
どうしよう行ったほうがおもしろいのかな? 何もないロシア旅に変化はつくけど…。
一瞬グラッと迷ってから、いやいや。正気を取り戻しました。
公開できる種類のエピソードなら手に入れたいけど、本当にまずいことになったらそれはもう書けないから、パス。 
後頭部を背負っているから、という立派な理由で危険を回避しているようですが、本当は普通に怖かっただけです。でも、「普通に怖い」という理由で安全な道を選ぶのは腰抜けで悔しかったので、「後頭部」という大義名分があって助かったと思いました。

暗くなる前に帰りたいから、という箱入り娘のような理由を言って、ふたりは駆け足で駅に向かいました。


正しい選択だったよ。
武内さんがにっこりしてくれました。


固いベンチの足下の暖房が、強力な温風を吹き出しています。


蛍光灯の中途半端な光度が、塾の自習室みたいだと思いました。

鉄道を下車すると、あたりには機関車から吹き出す蒸気の音が気ぜわしく響き渡っています。
ふと顔をあげた武内さんが、
「あ、ケムケム。」
と言って、わたしは階段から落ちそうになりました。そのオノマトペ変だよ!!
「煙のことケムケムって言う人初めて見たよ! 煙はモクモクじゃない? ケムケムだと毛虫だよ!」
呼吸困難になるほど笑いながら、どうして自分はここまで自信を持って笑えるのかと不安になりました。
「煙をケムケムとは言わない」って、学校で習ったっけ?
感覚的なものなのか、知識として後天的に身に付いたものなのか、なぜおかしいのか、うまく説明できない自分がもどかしくて武内さんに責任転嫁。武内さんが日本語を勉強している外国人のように思えました。

例えば、だって煙草のことをタバタバとは言わないじゃん、プカプカじゃん。
焚き火はタキタキじゃなくてパチパチじゃん…。

ていうか、ここだ! 革命広場ってここのことだ!!
あと昼間教えてもらった「3つの銅像が並んでいる」も、多分これだ!
色々間違えていました。やっと本物の観光名所に来られました。


革命広場の周りにはたくさんのお店が並んでいて、ウラジオストクの物流を勝手に心配していたわたしは、ほっと胸をなでおろしました。考えてみれば、観光地でもないところにお店が集まっているのなんて不自然です。


どこかでごはんを食べなくては。
入ってから、「高い…」と思って落ち込まなくてもいいところ…。

結局、またしても冒険を恐れてセルフサービスのお店に入りました。


暗い照明の中で、不自然な色のサラダが毒々しい存在感を誇っていました。

店内では軍服の方(もしくはコスプレ)がクロスワードをしていて平和です。

ひとつ前のおおにしさんの記事で「1945」が何の年号だかわからないと書いたら、呆れた知人から「本当に知らないの? ギャグなの? 世代?」、中学からやり直すようにと言われたのですが、世代じゃないです、バカがふたり揃ってしまっただけです。
食べ物のチョイスもバカっぽかった。緑がなくて恥ずかしい。

この「CCCP」も何を意味するのかわからないんですけど、……これも終戦の記号ですか……? 重要な条約ですか…?


わたしたちが後頭部の櫛野さんを中心にはしゃいで写真を撮り合っていると、隣席のマダムたちが目を細めて、「撮ってあげるわよ」と買って出てくださいました。

室内にいるロシア人は割とやさしい。
滞在二日目で感じた主観です。

温かいスープとクレープがおいしかったです。

腹ごしらえもしたことだし、と約4kmを歩いて帰るつもりでいたのですが、ちょうど「4д」のバスが来たので乗車することにしました。
日本のバスと違うところは、車内にラジオや音楽がかかっているところ。ミラーにぶらさがっているマスコットやクッションにも、運転手さんの個性が垣間見えます。

バスは一律料金で、どれだけ乗っても40円ほど。
食品の物価は日本と大差ありませんが、公共の乗り物の価格はとても安価です。
ウラジオストクには地下鉄がないのでバスの利用客がとても多く、市バスが市民の足になっているようでした。
日本ではバスというとお年寄りのイメージがあったので、黒いパッツパツの革ジャンを着たガタイの良い大男たちが、小銭を握りしめておとなしく下車する様子は新鮮な光景でした。


ホテルの前のゴミ箱に、段ボールがたくさん捨てられていました。
きれいなものを選んで、部屋に持ち帰ります。



今日のスタッフのおねえさんは英語の通じる方でした。
ビューティフルビューティフルと言ってツーショットを撮ってもらい、いい気持ちで4日分の滞在費を支払いました。

マトリョーシカの大道具を制作しかけたけれど、カッターで足指を切ってしまって出血。
明日でもいっかあ、と、諦めて寝ました。


朝は、この薄暗さで、もう8時半です。
夜明けがとても遅いので、目覚ましをかけずに自然光で目覚めようとすると失敗してしまいます。

櫛野さん、1日ありがとうございました!