走っているのに、歩く何人もの外国選手に抜かされます。
真似して歩いてもみましたが、わたしが歩くとさらにとんでもなく遅くなるので、無様でも走り続けるしかありません。
ハア、ハア、聞き分けの悪い犬みたいな荒い呼吸で、足に向かって必死に指令を送りました。
右足、前へ、左足、習え。
右足前へ、左足習え。
右足前へ、左足………って、左足!! 習えっつってんだろ!
従わない左足をもう待てず、わたしはポケットの薬をもどかしくまさぐりました。
4錠持っていた痛み止めのうち、2錠は外国の方にあげました。今、1錠を服薬。残る1錠はいざという時のためにお守りにしておきたいところです。
効いてくれ、ロキソニン。
このままじゃ間に合わない。
完走したい。
完走したい完走したい完走したい。
薬の力を借りてでも、汚い手使ってでも完走したい。
グレーに煙る単調な景色に、鼻歌を呼び出そうとしましたが、頭の中にはどんなメロディーも詞もなくて、ただ真空の中にぽっかりと、「完走したい」だけが浮かんでいました。
今年のわたしのテーマは「アンチこころ」でした。
心が折れるとか折れないとか、何それそういうの流行ってんの? 苦々しく思っていました。
リタイアを重ねる中で、いやというほど思い知らされました。
「弱い体に、強い心は宿らない」ってこと。
心がどんなに強く完走を願っていても、体が言うことを聞かなければ、心なんて簡単に折れるんです。心だけじゃ完走、できなかった。ぜんぜん。
心が強いって思っている人は体が強いだけだし、心が弱いとか言ってる人も、それは実は体が弱いだけなんだと思う。
アンチこころ。
わたしには、折れて困るような心などそもそもない。
見えないものは存在しない。心もない、筋肉もない、臓器もない、輪郭だけ。
輪郭だけのわたしには、痛む原因もないはずでした。
でもおかしいな。
筋肉痛だし、胸がむかつく。
痛い。
見えないくせして、いろんなところが、痛い。