後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年3月26日土曜日

マラトンたん

「走るのが好きなわけではない」
というのがかなしいかなわたしと武内さんの共通項で、マラソン合宿が始まってからも、いかにしてマラソンと付き合うかがたびたび議題に上がりました。

「好きになれたら楽なのにね」
「走ってる最中はまだ、『好きになれそう』って思うんだけど」
「走ってない時はやっぱり全然マラソンに会いたくない。『今日も好きじゃなかった』って思ってがっかりする。」

「マラソンのことかわいく呼ぶようにする?」
「マラトンたん?」
「マラトンたん。」
「『好き』って決めるんだよ!」
「マラトンたんをふたりで取り合えばいいのかな」
「『わたしのほうがマラトンたんのこと好き!』『いやこっちのほうがもっと!』みたいな?」
「好き度は走行距離と時間で示す。寝る間も惜しんでマラトンたんに会いに行く。」

…………この会話を、30オーバーのおばさんふたりが家賃3万円の木造家屋で繰り広げていると思うとゾッとするものがありますが、わたしたちは真面目でした。
なんとかして好きになりたかったし、苦労して好きになってやってんだからちょっとは振り向いてくれとも思っていました。片思いなんかするもんじゃないです。武内さんは無理に走ったりしないで絵を描いたらいいんだし、わたしは、…あ、あれ? わたしは、マラソン……? うそだ、自分の最上位が、マラソン? 
時間と熱意を貢いだぶんの見返りが、欲しい……。

好きじゃないことに打ち込むという不毛な走り込みの毎日でしたが、しかし武内さんは目に見えて、速く強くなっていきました。
10kmで音を上げた雪の日から1ヶ月、うららかにゆるんだ初春の風の中、京都と大阪との往復93km。休憩を挟んだとは言え、終始確かな足取りで武内さんは自己最長距離の93kmを走りきりました。
個人で走る93kmは、大会で走る100kmよりも大変なはずです。ナンハンでの100km完走はもう間違いありません。

完走圏内に余裕で入った武内さんは良いとして、問題はわたしでした。
去年と同じ108kmにエントリーしたつもりでしたが、今年は108km部門はなく、120km部門にエントリーしていたことが判明したのです。
120km、標高2300m、制限時間14時間。
去年の108kmは制限時間の14時間に間に合わず、40分もオーバーしてのゴールでした。
去年より12kmのびてるのに40分縮めるのか!
2年連続のリタイアはまずいです。
ただどうも厳しそうです。