神戸の松本なおきさんです。
去年も六甲でたのしませてもらった、と、簡潔なメールを送ってくださいました。
自分が不在の時なのに旅券を買ってくれるなんて。
本当に作品を見てくださっているのだなあと思うと感無量です。
実際に会っていない方だとメールの内容とお写真から人となりを想像するしかないのですが、ハットリさんも松本さんも、文章からの情報がなさすぎます。
こちらで好き勝手想像を膨らませるしかないのですが、松本さんの印象は「古墳好き」ということにしました。
これから向かう明十三陵は、ガイドブックによると「皇帝、皇后が数多く眠る広大な墓地」だそう。
クジを忘れた今日、世界遺産だけど地味そうな明十三陵には、こちらの意向で勝手に松本さんを抜擢させていただきました。
松本さんが、遊園地とかダンスクラブとかショッピング大好きな人だったらどうしようって今でも不安に思っています。
地味そうだなあという予感通り、色のない地味な写真がどんどん撮れました。
わたしは古墳や墓地や盆栽など、地味な世界が好きなのですが、どうか松本さんも地味を愛する人でありますように……。
これは、セキュリティチェックのためのゲートです。
天井の派手なブルーは明十三陵とは無関係です。
場内の見取り図の前で、ガイドさんが歴史を説明してくれます。
わたしは後頭部の松本さんさえ撮れればいいやと思っていて、たまにガイドさんの目を見て、聞いてますよというふうににっこりしてみるだけで、実際は話を全然聞いていません。
でもこっちだって別に遊びで撮ってるわけじゃないし、こっちはこっちでビジネスだし。
ガイドさんのかたい説明を何ひとつキャッチできずグレていましたが、お札が山になっていて、思わず身を乗り出しました。
松本さん、俗物ですみません。
ガラスケースの中には石のかけら(ヒスイ? コハク?)もごろごろ転がっており、こぶし大くらいのサイズのひとつを指さしたガイドさんが「これが手に入れば、わたしは今すぐこの仕事やめます。一生遊んで暮らせる」と実感をこめて吐き捨てていました。
わかるー!
共感したいところでしたが、今目の前にいる客としては「ですよね、やってらんないですよね」とも言えず、リアクションに困りました。
わたしもガイドさんといっしょになって、武内さんったら、本当に話を聞いてないんですね、と呆れ顔をしました。他人の失態で1ポイントゲット。
地上にあったこの巨大な印鑑は、まるごと継ぎ目なく一枚岩でできているそうです。
しかし、一体こんな印鑑をつくってどこに押印するつもりなのか。何人がかりで持ち上がるのか。どんな書類に使うのか。ていうかそもそもこれは本当に印鑑なのか。
勝ち誇ったように写ったつもりは全然ないのですが、ガイドさんも「自分が間違っていた」とは決して言わず、ふうーん。と思いました。ふうーん。
頭の中は謎でいっぱいでしたが、ガイドさんに質問する勇気はありませんでした。マイナス10ポイントぐらいになりそうだからです。
明十三陵は、たくさんの謎に包まれた迷宮でした。
地下に潜る前に、入場してすぐのところにあった顔出しパネルで写真を撮りたくてわずかな自由時間を所望したら、撮影は有料だから後にするよう、ガイドさんに渋い顔をされたのでした。
まさか。貸衣装は有料だろうけど、顔出しパネルでお金取るとか聞いたことないんだけど。
何度も丁寧に、きっと無料じゃないでしょうか? と明るく申し出たのですが意見は通らず、荒ぶる気持ちをトイレでクールダウン。
とにかく係の人に聞きに行ってみました。
無料でした。
松本さんが顔出しパネルで大喜びしてくれるとも思えませんが、写真が撮れてわたしは満足です。
あきちゃんも撮ろうよ。
無料をいいことに武内さんも誘いましたが、わたしですら背伸びでやっと写れたぐらいなので、試しもせずに諦めました。
明十三陵だけで松本さんに満足してもらえたかどうか不安なわたしは、駐車場へ歩きながら、帰りの車がパンクしたりしないかな。と不穏な冗談を言っていました。
そしたら車のドアが開かなくなっていて、「出た! くるみちゃんの呪い……!」
武内さんが震え上がっていました。「出た」とか言われましたが、呪ったことなんてないですけど。
ドアは2分後に開いて、汚名返上というかなんというか、変なイメージつけるのやめてほしいです。
松本さんご本人が行ったほうが、明十三陵のためにも良かったのではと思うほど歴史的な史実は一切頭に残っていませんが、地下に眠る皇帝たちが奏でるつめたい不協和音はなんとなく感じられました。
お墓なんだし本当は敬虔な気持ちで見学しなくてはならないのでしょうが、投げ込まれた大量のお金、無造作に転がる豊富なお宝が、我々に俗世の欲望を軽々と思いださせるのが皮肉でした。
社会学習の巻、これにて終了です。
地味ながらも心に残った明十三陵でした。
松本さん、どうもありがとうございました!