後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2014年11月16日日曜日

松本さんと、王の墓


神戸の松本なおきさんです。
去年も六甲でたのしませてもらった、と、簡潔なメールを送ってくださいました。
 
自分が不在の時なのに旅券を買ってくれるなんて。
本当に作品を見てくださっているのだなあと思うと感無量です。
実際に会っていない方だとメールの内容とお写真から人となりを想像するしかないのですが、ハットリさんも松本さんも、文章からの情報がなさすぎます。
 
こちらで好き勝手想像を膨らませるしかないのですが、松本さんの印象は「古墳好き」ということにしました。
 
これから向かう明十三陵は、ガイドブックによると「皇帝、皇后が数多く眠る広大な墓地」だそう。
 
クジを忘れた今日、世界遺産だけど地味そうな明十三陵には、こちらの意向で勝手に松本さんを抜擢させていただきました。
 

松本さんが、遊園地とかダンスクラブとかショッピング大好きな人だったらどうしようって今でも不安に思っています。
 
明十三陵へ向かう車の中で、松本さんの顔が、描けました!
 

地味そうだなあという予感通り、色のない地味な写真がどんどん撮れました。

わたしは古墳や墓地や盆栽など、地味な世界が好きなのですが、どうか松本さんも地味を愛する人でありますように……。

これは、セキュリティチェックのためのゲートです。
天井の派手なブルーは明十三陵とは無関係です。
 
行列は団体客のためで、一般客はそこまで多くない印象でした。

場内の見取り図の前で、ガイドさんが歴史を説明してくれます。

わたしは後頭部の松本さんさえ撮れればいいやと思っていて、たまにガイドさんの目を見て、聞いてますよというふうににっこりしてみるだけで、実際は話を全然聞いていません。
 
父がこんな仏頂面をしているのは、話をちゃんと聞かないわたしと武内さんの態度が苦々しくてならないからで、「写真なんか撮ってないで話聞きな!」という顔がこれです。


でもこっちだって別に遊びで撮ってるわけじゃないし、こっちはこっちでビジネスだし。

我々は我々で、なるべく迷惑をかけないようにと工夫してやっているのに、ガイドさんに失礼のないよう心掛けているのに、全然評価されてないと思うと悔しく、態度を改めるどころか開き直ってますます話を聞かなくなりました。

お墓と聞いてイメージしていた、空高く風が吹き抜ける爽やかな平原とは違って、ここのお墓は地下深くに広がっています。

ガイドさんのかたい説明を何ひとつキャッチできずグレていましたが、お札が山になっていて、思わず身を乗り出しました。

松本さん、俗物ですみません。

ガラスケースの中には石のかけら(ヒスイ?  コハク?)もごろごろ転がっており、こぶし大くらいのサイズのひとつを指さしたガイドさんが「これが手に入れば、わたしは今すぐこの仕事やめます。一生遊んで暮らせる」と実感をこめて吐き捨てていました。
わかるー!  
共感したいところでしたが、今目の前にいる客としては「ですよね、やってらんないですよね」とも言えず、リアクションに困りました。


見学を終えて地上へと階段を一歩一歩上がりながら、武内さんが「おおさまの座っていた大理石の椅子は硬くて冷たそうですねー、痔にならなかったのかなー」などと優しい心配をして、「あの椅子は死後記念に作られたものですよ。実際に皇帝が座っていたわけではありません。さっき説明したでしょう。」と墓穴を掘っていた。
わたしもガイドさんといっしょになって、武内さんったら、本当に話を聞いてないんですね、と呆れ顔をしました。他人の失態で1ポイントゲット。

地上にあったこの巨大な印鑑は、まるごと継ぎ目なく一枚岩でできているそうです。

しかし、一体こんな印鑑をつくってどこに押印するつもりなのか。何人がかりで持ち上がるのか。どんな書類に使うのか。ていうかそもそもこれは本当に印鑑なのか。
頭の中は謎でいっぱいでしたが、ガイドさんに質問する勇気はありませんでした。マイナス10ポイントぐらいになりそうだからです。

明十三陵は、たくさんの謎に包まれた迷宮でした。

地下に潜る前に、入場してすぐのところにあった顔出しパネルで写真を撮りたくてわずかな自由時間を所望したら、撮影は有料だから後にするよう、ガイドさんに渋い顔をされたのでした。
まさか。貸衣装は有料だろうけど、顔出しパネルでお金取るとか聞いたことないんだけど。
何度も丁寧に、きっと無料じゃないでしょうか?  と明るく申し出たのですが意見は通らず、荒ぶる気持ちをトイレでクールダウン。

とにかく係の人に聞きに行ってみました。

無料でした。

勝ち誇ったように写ったつもりは全然ないのですが、ガイドさんも「自分が間違っていた」とは決して言わず、ふうーん。と思いました。ふうーん。

松本さんが顔出しパネルで大喜びしてくれるとも思えませんが、写真が撮れてわたしは満足です。

あきちゃんも撮ろうよ。
無料をいいことに武内さんも誘いましたが、わたしですら背伸びでやっと写れたぐらいなので、試しもせずに諦めました。

 
これでエピソード、足りるかな。

明十三陵だけで松本さんに満足してもらえたかどうか不安なわたしは、駐車場へ歩きながら、帰りの車がパンクしたりしないかな。と不穏な冗談を言っていました。
そしたら車のドアが開かなくなっていて、「出た!  くるみちゃんの呪い……!」
武内さんが震え上がっていました。「出た」とか言われましたが、呪ったことなんてないですけど。
ドアは2分後に開いて、汚名返上というかなんというか、変なイメージつけるのやめてほしいです。


無理していることが明らかなぎこちない微笑みの父とも記念写真が撮れました。

松本さんご本人が行ったほうが、明十三陵のためにも良かったのではと思うほど歴史的な史実は一切頭に残っていませんが、地下に眠る皇帝たちが奏でるつめたい不協和音はなんとなく感じられました。

お墓なんだし本当は敬虔な気持ちで見学しなくてはならないのでしょうが、投げ込まれた大量のお金、無造作に転がる豊富なお宝が、我々に俗世の欲望を軽々と思いださせるのが皮肉でした。

社会学習の巻、これにて終了です。
地味ながらも心に残った明十三陵でした。
松本さん、どうもありがとうございました!