後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2014年11月11日火曜日

北京マラソン、おかけんさん

マラソン中の後頭部を誰にするか決める時、できれば男の人がいいなー、足速そうな人だとなおいいなーと思いながらクジを引いたら見事「おかけん」の名前が出ました。


送っていただいた写真はミステリアスな雰囲気で、体育系なのか文系なのか理系なのか判別がつきません。
でも、なんとなく体育系ではなさそうな予感…。
いっしょにがんばりましょう! 
前のわたしと後ろのおかけんさんとでエールを送り合いました。

トイレの行列に並びながら、おかけんさんが、描けました!

仮設トイレからのびた行列は、なかなか進みません。



もうあと12人、11人、10人……。
カウントダウンが10人を切ったところで振り向くと背後にはまだ容赦ない行列ができていて壮観。


スタートまであと10分だけど、これ、最後尾の人、確実に間に合わないでしょう! 
心からの同情に、「自分は間に合った」という優越感がプラスされるところが情けなかったです。


わたしは裸足ラン決行のためこの時既に靴を預けて靴下になっていたのですが、武内さんに「仮設トイレの床びっちゃびちゃだと思うよ。うんことか山になってるよ」と不吉な観測をされて萎えました。ちょっと靴かたっぽ貸しなよ。片足立ちでがんばろうよと提案しましたが却下された。うんこまみれの足といっしょに走るのはあきちゃんだけど、ほんとにそれでいいの? 貸さないと後悔するよ。そう思ったけど仮設トイレは洋式で床ももちろんきれいでした。


もらさなかったー、助かったー!!! 

あきちゃんと手と手を取り合い、スタートゲート目指してダッシュすると、曲がり角を折れたところには仮設トイレがずらーっと並んでいて、クソッと思いました。
振り返って逆走して、トイレあっちにいっぱいあるよー! と叫びたい衝動に駆られましたが、中国語できないし時間ないし…と躊躇した一瞬のうちにわたしは人の渦に絡めとられて、善行の選択肢はなくなりました。

係員、だれか誘導してやれよと思った。
ほんとにかわいそうなんですけど。

あと、3万人規模のマラソンで仮設トイレが1、2個ってことはさすがにないから他のところも探そうよ、と経験者のわたしがもっと武内さんを誘導すべきだったなあと思って反省です。



ランナーの群れはゆっくりゆっくり前進していきます。
前の人に張り付いて少しずつ歩を進めながらふと、今何時だろうと時計を確認してみると、なんともうスタートの8時をまわっています。

……あきちゃん! も、もう始まってるよ! 号砲とかあった!?

 
周りのランナーも、8時になったからと言って拍手や歓声などで盛り上がることはありませんでした。
狐につままれたようなスタートでした。

横目で、立ち並ぶスカスカのトイレを睨みながら、わたしたちがゲートをくぐったのは8時5分。
思ったよりもロスはありません。

行くよ!

真剣な表情で、武内さんが声なくうなずきます。

後頭部のおかけんさんと走る北京マラソン、静かな幕開けです。



天安門に掲げられた毛沢東の顔は、スモッグで表情がわかりません。


暗い朝です。


晴れだと日差しが目に痛いし、日焼けするし、暑いし、曇天最高! 晴れるぐらいなら空気汚染の曇りのほうを選ぶよね、よかった!! 頭悪いことを言い合ったあげく、わたしたちは後日まんまと体調不良に見舞われるのですが、走っている間は涼しくてとても快適でした。

おかけんさんと、あと左右に作ったふたつの横の顔はマラソン中も大人気で、正面のわたしもあやかってたくさん写真に撮られました。




楽しんでゆっくり走る、ファンランの方の多い時間帯だったので皆にかまってもらえたのですが、シリアスランナーも多い位置だったら顰蹙を買っていたかもしれません。つくづく武内さんといっしょでよかったです。

走っていて珍しかったのは、参加賞の大会Tシャツを着ている人がとても多かったこと。視界に常にオレンジがありました。
日本では大会Tシャツを着ている人は50人にひとりくらい(自分調べ)なのですが、半数以上が大会Tシャツでした。

5㎞くらい走ったところで初めての給水がありました。

道路は雨のあとみたいにびっしゃびしゃで、水分が靴下に冷たく沁み渡りました。
裸足ランではなく靴下ランという半端なことになった理由は3つです。

1、ちょっとでもクッション性を…、という煮え切らない覚悟

2、スパルタスロンの後遺症で爪が数カ所なくて見た目に悪い

3、裸足ラン信奉者の一味だと思われたくない

北京では裸足で走っているランナーを10人ほど見ました。裸足クラブ? か何か、同一のグループのようでした。
昨今雑誌などでは「野生の力を呼び覚ます」とか言って裸足ランがブームです。実際自分も憧れているのですが、一方でシューズを開発しているメーカーの企業努力に対する尊敬もあって、裸足に傾倒しきれません。
あと、何か信念を持っている人に見られることをぜひ避けたくて、どっちつかずの靴下走になりました。自意識過剰だと裸足にしてもめんどくさいです。


靴下越しでも、アスファルトの微細な凹凸に足裏が痛みます。
当たり前ですが、靴ありと靴なしでは着地の衝撃が全然違う。
かばいながら走るため、フォームもひょこひょこしています。
普段裸足で走り慣れている人ならともかく、これは……ゴールできるのか…?
不安を胸に走っていると、5時間のペースメーカーがいました! 
おおおお! この速度でも、5時間ペース!! この風船についていけたらいいね! 完走できるね! 


橋の上からも観衆が声援を投げかけてくれます。


あ!
あの人、日本人じゃない? 声かけてみようよ!

「日本の方ですか?」

北の海女のハチマキを巻いて、あまちゃんの格好をされていました。
北京の人、あまちゃん知っているのかな?
彼は北京にお仕事で住まわれているそうで、日本の方に初めて会いましたと言うと、「エントリーしてたけど空気が悪いからやめた日本の仲間が何人かいる」とのことでした。


高架下を通ると、あちこちから大きな奇声が。


だれか、何かあったのかな?

特別なことが起きたのだろうと思っていましたが、次の高架でも次の高架でも、同じように絶叫がこだまします。声が反響するのを有効活用すべく(?)、皆が思い思いのことを叫ぶしきたり(?)のようでした。
わたしたちも真似して、4度目のトンネルで「後頭部ビジネス!」と声を合わせたのですが、後半にさしかかったその頃にはもう皆飽きたのか他にハイテンションな人はおらず、「後頭部ビジネスネスネスネス……」とエコーが虚しく響き渡った。

前を走っていた父も後日、「高架下で叫ぶ国民性がちょっとよくわからない。こどものようだ」と驚きとともに首をひねっていたのですが、自分たちも叫ぶのやったんだあ…と申告するのがきまり悪かったです。



サイケな西洋人の笑顔も、スモッグのベールでアンティークな風合いに。


19km。
わたしは足裏が痛むので、白線上を渡り歩いて(走って)いました。
白線のコーティングのおかげで、アスファルトよりも感触がなめらかなのです。


21km。
あきちゃんもいいペースです。


足に衝撃を与えない走り方にも慣れてきました。
ふたりとも息のあった走りです。



……と思っていると、武内さんのペースが落ち始めました。


沿道でも、休んでストレッチする人が多くいます。
皆疲れてくる頃なのでしょう。



武内さんはガス欠なのではないか。沿道に私設エイドがないか、だれか食べ物を恵んでくれる人はいないか。きょろきょろしながら走りました。



公式エイドにあるのはゴミ袋に溢れるバナナの皮やお菓子の包みばかり。
タイムが遅いせいで売り切れているようです。

27km、やっと、チョコスナックにありつけました。

バナナ食べたい…。
あきちゃんの願いは虚しく、またしてもバナナは売り切れでした。

と、思っていたら、欄干の上に並ぶ抜け殻バナナに混じって立体的なバナナを発見。
食べさしじゃない、新しい完全体でした。ラッキー!
だてに食いしん坊やってません。我ながらすごい嗅覚でした。



お水も、欄干の上のペットボトルを飲んだ。
これはだれかの飲み差しでしたが、わたしもあきちゃんも気にしません。

救護車に、リタイア宣言している人がいます。

地面には北京オリンピックの五輪の塗装が。

たちこめるスモッグを透かして、太陽が見えました。

明るさの変化で時間の流れを感じることはできません。ずっと暗い。

ポップなはずの遊園地も目にやさしい配色に…。


バナナを腹に入れたあきちゃんに、足が戻りました。
快走を見せます。

ふたりとも、トイレはパス。スタート直前に行っておいてよかったです。


リタイヤバスの待つポイントも仲良く通過しました。


あきちゃんが変な動きをし始めました。

どのフォームが楽か、いろいろ試しているそうです。

自分のことを「ピンクおばさん」と自虐的に呼ぶあきちゃんに、ピンク着てる女の人普通にすごい多いからあんまり不用意なこと言わないほういいよ、とたしなめましたが、「他の人はいいんだよ」と言っていて、気持ちはわかるよ、と思った。
あきちゃんのショートパンツ、ただの部屋着だもんね。
もらいものを寄せ集めたらピンクまみれになったそうなのですが、でも、ピンクの帽子(若木私物、大会参加賞)とか自分で選びとったじゃんと思った。白も青もあったけどピンクにしたんじゃん。大好きじゃん。攻撃すると、形が頭に合ったんだよ。ということでした。

だいたいピンクの弁解をさせてしまうことがおかしいのですが、恥ずかしそうにされるとかまいたくなるんです。あきちゃんピンクかわいいよう〜。


わたしはだれかが捨てたテーピングを拾いました。

あきちゃんはスポンジで頭を冷やしてみます。
気温は涼しいままですが、とにかくなんでも試してみなくては、受けられるサービスは受けなくてはという貪欲な姿勢です。

このエイドにはバナナもチョコもありました。

マッサージを受けます。

時間大丈夫かな、と関門を気にして腰を下ろすのをためらっていたあきちゃんですが、劇的に楽になるかもしれないよ! とすすめました。わたしは大会中マッサージを受けたことはありません。足が臭いから…。

無料だもんね。せっかくだもんね。
貧乏性な動機でマッサージをしてもらったところ、包丁で刻むようなバイオレンスなマッサージに苦悶していた。

しかし立ち上がってみると超回復していたらしく、中国とか鍼灸の本場だもんね。四千年の歴史疑って悪かったね、と反省しました。

ただ、マッサージの効果は一時的(もしくは精神的)なものだったようで、後ろ向きに走ってみたり、早歩きに変えてみたり、武内さんの苦闘はその後も続きました。

オリンピック記念公園に入ると、折り返してくるランナーがいました。もしかして、と父の姿を探しながら走りましたが会えず。

わたし、先行って、折り返してくるよ、それからあきちゃん待つよ!

退屈してきたわたしはダッシュで走って、折り返しポイントを待ちました。

しかし、コースは単純な折り返しではありませんでした。
公園を一周してからさっきの直線を戻るルートのようで、ここで暴走してはあきちゃんとはぐれるだけだと懸命な判断をして、おとなしく待機した。

柵のあちら側が、折り返してくるランナーです。ジャーヨー、ジャーヨー! 応援しました。

スタッフの方に、リタイアしたいのか? と心配され、ノーノー、マイフレンドを待っています、と話していると、マイフレンドが現れて無事合流。




公園はとてもきれいでした。
今大会中、はじめて心安らいだ。正直言って街の景色は最低だった。全然タイプじゃない。


いつもは直立不動のポリスがだるそうにさぼっているのも絵になりました。

広大な公園です。



オレンジのバルーンの、5時間30分のペーサーに抜かれました。5時間の赤いペーサーを見失ってからは3時間ほどかかっています。普通にいったら、6時間のペーサーに抜かれることはなく、制限時間に余裕で間に合うペース!


37km!! 
もうあと5kmだよ!!
あきちゃんちから新宿までぐらいだよ! すぐだよ!!


5時間半のペーサーから離されないようつきまといます。

おかけんさん、美人とツーショットです!

39km。
わたしは自分に疲労がなさすぎてあきちゃんを思いやれない。


あちこち寄り道をしてカロリー消費に努めます。

最後まで持つか心配していた、靴下ランの足裏ダメージにはもう慣れていて、痛みはほとんどありません。
あきちゃんも、この調子なら大丈夫。

ゴールを確信して元気よく走っていると、ずいぶん前に離された西洋人のトリオに追いつきました。

皆、けだるい表情です。

おつかれ!
40km!!


最後の直線に戻ってきました。

いっしょに走ろう、いっしょにゴールしようと決めてから、ふたりで、ラスト1kmは二人三脚できたらいいねと話し合っていました。
ワカキ撮り計画の紹介文「世界各国二人三脚の旅」にちなんでです。

自分の初フルを思い出して、残り40kmからの残り2kmは超長いからね。永遠に着かないよ。
と脅していたら、あっさり1kmを切っていたようで、気づくともう前方にはゴールゲートが見えていました。

あ、あれ!?
ごめん着いちゃった。

慌てて道中拾ったテーピングでぎゅっと足を結びました。

行くよ!!

ゴール手前で、ゲートは男女別に分かれます。
おかけんさんすみませんが女子のほうで失礼します…。

いち、に、いち、に! 
イー、アー、イー、アー!!



足に気をとられて地面ばかり見ていたのが、ゴール手前でふと顔を上げると電光掲示板には「5:29:30」の数字がきらめいていて、うわうわうわうわうわー!! 5時間半! ふたりもんどりうつようにゴールになだれこみました。

おめでとう!!
初フルマラソン、完走!!!


ヨユウでしたね!!!
おつかれさまー! よくがんばりました!!

おかけんさん、おめでとうございます!
ほんと、人気だったです。
謝謝!(動画もアルヨ)

完走記念品として、メダル、お菓子、サバイバルブランケットの入ったビニール袋が渡されました。
エイドにはチープな色の飲料が並んでいた。こわい。


オリンピック競技場の鳥の巣の前で周囲に愛想をふりまくおかけんさん。



みんなによろこんでもらえてほんとに後頭部やってよかったし、つらいだけがマラソンと思っていたけど、別に、楽しく走ることもできるんだな、とも思った。やればできるんですね。

おかけんさんと、あきちゃんがいてくれたから、楽しめました。

父も4時間36分なにがしでゴールしていて、皆の北京マラソンがめでたく終わりました。
たのしかった! 
わたしも、靴下でゴールできて自信になった!



だけど本当はいまいち心には残っていない。あまり苦しめなかったからです。
なんかほんとに、お金払って楽しいだけってもったいないと思うようになっちゃって、貧乏性ってこういうことだっけ?  
せっかく授業料(参加費)払ったんだから勉強(経験)積まなきゃって思うんですけど、遊んじゃいました。

北京は全然四面楚歌じゃなくて、すごくウェルカムで、むしろ温室でした。
自分の成長にはつながらなかったけれども、後頭部の自信になりました。


おかけんさんおつかれさまでした!