後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年6月13日月曜日

鯖街道ウルトラマラソン 77km

5月22日、朝4時起床。
前日コンビニでたくさん買った朝ごはん用の、パンやシュークリームがテーブルに躍っていて壮観でした。
父はおなかを下していて食欲がなさそうでした。ゆうべの貝か何かに当たったみたいです。
わたしも若干、ゆるかったけど、自分の場合はよくおなか下すので原因はわかりません。


宿からスタート会場までは2kmほど。

窓からは、海岸通りをぞろぞろ歩いていくランナーたちの姿が見おろせました。
わたしも長めのコートにリュックを背負って、スタート地点へ向かう人の流れに混じりました。
海面に乱反射する光がまだ眠い目に跳ねて、朝を告げていました。

大会にはゴール地点の京都まで荷物を運んでくれるサービスがあります。
荷物預け場所で、大きくスーハー、深呼吸して一思いに上着を剥ぎ取りました。

武内さんと、へんとつくりで、漢字の鯖。
コンセプトは明快だけど、わたしは自分が変な格好をしていることを痛々しいほど意識しており、ここ日本だから、日本語だから、周りが何て言ってんのかわかっちゃうんだと思うと耐え切れず、徹底的に怖じ気づいて、人目を気にして縮み上がり、トイレに行くときも必ず武内さんに右横にくっついてもらって「あきちゃん絶対右にいて」「もうタイムはいいからゴールまでいっしょにいて」「絶対離れないでお願い」と、うっとうしく繰り返していました。
「うん。うん。大丈夫だよ。いっしょに走ろう。」武内さんはあくまでやさしかったです。


スタート直前、群衆の中におそるおそる紛れると後方からたくさん写真を撮られたりして、逃げ場がなくなると腹が据わりました。
やっと、「やってよかった」の気持ちになれました。
よろこんでもらえてうれしい。

父とははぐれてしまって前にいるか後ろにいるかもわからず、AM6時の号砲で集団は商店街をスタートしました。
わたしは鯖街道、久しぶりでした。今回2度目の参加です。


「魚」と「青」とで並んで走っていると、ランナーの皆さんに「鯖!」と、よく声をかけていただきました。
わたしは苦手の上りで酸欠を起こし、武内さんについていくのがやっとです。
ヒイヒイ喘ぐわたしの情けない姿を見た周りの方の、「……魚のほう死にそうなんだけど大丈夫? まだ10kmやで。」そう案じてくださるお声には、武内さんが「そうなんですよ〜、泳ぎは得意なんですけどね〜、魚なんで」と余裕の大喜利をかましていました。(※泳ぎはもっと苦手です)



「おもろいな〜。写真撮ってもいい?」
どうぞどうぞ〜!  そして撮ったやつください。


「あ、あなた、むかし○○大会に出てた子?」
ハイッ!


振り向きました。
わ〜、越野さん!! 
また名前、一文字間違って覚えてたけど、ニュアンスは把握できていました。越田さんでした。
通称「関門の魔術師」と呼ばれる越田さんは、ギリギリで関門を通過し続けるという胃の痛くなるような離れ業で魅せるベテランランナーです。経験の少ないわたしは「越田さんって人より前にいれば完走できるから」と皆から言い聞かせられ、どの大会でもすごく目のかたきにさせていただいていました。「越田さんにだけは抜かれちゃだめだ、おんどりゃ〜!」と思って。
今回再びお目にかかれて感激でした。

他にも、ずーっと前の大会で写真を撮ってくださった方がいらしたり、変な格好してるのに話かけていただけて思わず涙腺がゆるみました。
国内の大会に自作衣装で出ることを激しく畏れ、石投げられるとか唾吐きつけられるとか最悪の想像で追い込んでいたスタート前の精神的自傷行為でしたが、あっという間にかさぶたになった傷痕が今では無性にかゆいです。ガラスのハートは回復もクソ早くて安心しました。


距離を積む毎にスタート前のド緊張はほぐれ、楽に走れるようになってきました。
コースは自然がいっぱいでとても気持ちがよいです。
川のせせらぎがおなら音をかき消してくれました。リアル音姫。(トイレのやつです。男性用トイレにもあるのかな?)
呼吸するたび森のにおいがおいしくて、体にいいことしているような充実感で満たされました。
快晴のお天気も、日曜日のあかるい雰囲気に合っていました。

最初の峠で800mぐらい標高を上げないといけないのですが、シングルトラックで渋滞しているためペースは遅めで、わたしでもなんとかついていけました。


でも上りが得意な武内さんはじれったそうだった。
「先行っていいよ」って言ったけど、抜いても抜いても先行ランナーが続くから走ることはままならず、でもまだ峠はあとふたつあるから、そしたら渋滞も緩和されるから、今は温存しどきだよって。声には出さず心の中で言いました。

そして下りになった瞬間、ここで稼いどかなくちゃと思って一気に先行。渋滞のトレイルを抜け、広めの舗装路に出た瞬間振り返って、「上りで抜いてね!」の意思を込めて武内さんを見ました。「オッケー」とうなづいたのを確認した、ように思ったけど気のせいだったかもしれない。
「片時も離れずいっしょに走ろうね」と当初泣きついていた自分の姿がチラッと脳裏をよぎったけど、もう大丈夫になっちゃったしなあ。上りで自分がブレーキになるのやだなあと思って。下りで引き離しました。

関西弁だけどコワモテじゃない、淡々とかっこいいお兄さんが、「青の子(武内)どないしたん」「魚(わたし)、下り速いんちゃうん」「青の子さっきのエイドにおったで。そんな離れてへんで。」と、要所要所で話しかけてくださいました。
珍しく白色のタイツを履いておられたので、どこで買ったのか聞いたら「ネット。」というつまんないお答えでした。
白タイツという軟弱な格好にも関わらず、すいすい速くて途中で見えなくなりました。

2つ目の峠は九十九折でとてもきつく、ゼーゼー肩を上下させて、休みながら歩きました。頂上まで長かった。けれどもあきちゃんは現れないままでした。

3つ目の峠が九十九折で死ぬほどきついよ、って事前に武内さんに説明していたのですが、記憶違いでした。3つ目の峠はそんなに勾配きつくなかったです。2つ目の坂と勘違いして覚えていたみたい。あと、「九十九折」と書いて「つづらおり」と読むって初めて知ったの、前回の鯖街道の時でした。「くじゅうくおり」って読んでた。
……あれ、前に出たの、何年前のことだったろう。





結局3つ目の峠も越してしまいました。
もうあとは下りと平地だから武内さんとはゴールまで会えないだろうと観念しました。
「待つ」の選択肢はなくて、そこはドライですみません。

「最後の激下りで飛ばし過ぎたら残りの平地走れなくなるから抑えめで」って、以前だれかに言われたアドバイスを武内さんにもまんま横流ししていたのですが、今回走ってみると、それほど激坂には感じられませんでした。
そうか、この何年かの間に、わたしもいろんなコースを走ってきたんだ。そう思うと感慨深いものがありました。
初鯖の時はまだトレイル未経験者だったんでした。
完走できるかどうかすごく不安だったなあ。レース中きつかったなあ。
初鯖が何年前の出来事になるのか、一生懸命考えてもまだ、この時点で思い出せていないのですが、時の流れとともにちゃんと、経験も蓄積されてきたんだとしみじみ思いました。




もう8年前だ。たぶん。
大会後日、自分の走っている写真を見て、 あまりにも人と違っていることにびっくりして、この素材はおもしろいと確信を得たのでした。自分という素材。
この腕ふり何だよ。独特すぎて震撼した。
今のわたしがあるのはけっこう、この時の鯖によるものが大きいかもしれないです。
量感とか表情とか。
油粘土でつくった雑なアニメーションみたいなだらしない動きと、ウェアの分量に対して多すぎる肉付き、弛緩と緊迫を繰り返す奔放な顔面。うけた。
これ以来ノースリーブは決して着ません。

下りは抑えよという忠告を無視して重力のままにぶっ飛ばし、河川敷のラスト6km、歩き倒した初めての鯖街道。
8年間でどれくらい成長できたのか、自分の体でぜひ突き止めてみたいものです。
今年は最後まで全力で走り切ることが目標でした。
ゴールは京都、出町柳。


ゼーゼー呼吸を荒らげる騒々しい走りでフィニッシュしました。
周囲の奇異な眼差しはすべて無視しました、ガラスから一転、鋼鉄のハートでかっこよかったです。
今年のゴールシーンがないので前回の写真で失礼します。
完走のよろこびは8年前とおんなじでした。

ゴールでは姉が出迎えてくれました。
大学でオリエンテーリング部に所属していた姉は、8年前の鯖街道で女子8位でした。
今ではもう走っていない姉ですが、当時は姉じゃなくわたしがマラソン続けている未来なんて想像もできなかったです。ミイラ取りがミイラになるって言うのかな? 取ろうとしたわけじゃないからちがうか。でもよくある話ではありますね。5年前は未経験者だった武内さんも今じゃもうバリバリ走ってるわけだし。
話が脱線しましたが、ユニクロの部屋着で走って入賞する姉の姿に多大な影響を受け、今の自分はこんな仕上がりになったと思っています。なんか、どっか、ナメてる人でいたいのかもしれないです。見栄っ張りなんだと思う。

ゴールしてから、武内さんを迎えに逆走しました。
体力限界だったからすぐ会えてほっとした。

あ〜き〜ちゃ〜ん!!
おつかれ!!!




橋をあと3つ、くぐるとゴールです。


ゴールゲート!
手をつないで走りました。



おめでとう、おつかれさまでした。
たのしかった?
たのしかったよ。
たのしかったね〜〜〜!!