後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2014年12月25日木曜日

とっちとあっきー/帰国

今日は帰国日です。

とっちとあっきーです。


バンコク→台湾→日本の、乗り継ぎ便で帰ります。
バンコクから台湾までをとっち、台湾から日本までをあっきーが担当します。


おいしかった朝ごはんもこれで食べ納めです。

毎日メニューが変わるバラエティ豊かな朝食でした。

毎日後頭部の顔が変わるわたしに、食堂の方が日々笑顔で挨拶してくださるのもうれしいことでした。

散らかした荷物をリュックサックに放り込んでいると、ホテルの部屋にガイドのゴップさんからのお迎え電話が入りました。
ばたばた走ってゴップさんに会いに行きます。
ゴップさんの顔を見るととてもほっとしました。
旅行は無事だったか聞かれ、スマホをなくしたことを打ち明けると、「自分もトイレに携帯2回置き忘れたけど、どっちも戻ってこなかった」という体験談をされて(けっこう忘れてない?)、
「機種は?」
「アイフォン。」
わたしが答えると、
「アイフォーン。オワタ。」
重々しい口調でとどめを刺されました。
自分のは普通のスマホだったけど戻ってこなかった、アイフォン5Sが戻ってくる可能性は限りなくゼロだとおっしゃっていました。
「タイは、イイ人、イナイ。落し物、届けナイ。」って、…ゴップさんもアイフォン拾っても届けないですか?  って聞きたかったけど聞けなかった。

朝7時半、空港目指して出発しました。

わたしたちが昨日髪の毛を切ったことを話すと、日本に美容院はないのかと驚かれました。
「日本は高いんですよ〜。」
タイは240円だったことに感激する我々に、「ソレハ…」と口ごもり、「ワタシ、モウチョット、タカイトコ……」と言いづらそうに言葉を探していました。現地の人に勝つとかすごいなと思いました。プラージュとヴィダルサスーンみたいな感じかな。

それから嬉々としてバイクに乗ったことも話すと、参ったというように首をがくりとうなだれるゴップさん。

「バイク、事故。もし、アナタタチ怪我したら、ワタシ、」
(ここでちょっとためる)
「ワタシ、クビ。」
(クビのジェスチャー付きで。)

!!!
がーん!!
ゴップさんのクビがかかっているとは思いもよらず、自分たちの無事しか願っていなかった。改めて何もなくてよかったとゾッとしました。ノーヘルでバイクはやっぱり危ないみたいです。バイクタクシーでもよく事故が起こると聞きました。

ゴップさんは「マンガ」をきっかけに日本に興味を持ったそうで、ちびまるこちゃん、ドラえもん、花より男子などの作品をあげていました。
しかしながら日本を訪れたことはないとのこと。
ぜひ遊びに来てください!  もてなしたいです!
意気込んだら、「猫にエサをあげなくてはいけないから…」と大真面目に断られました。初対面で「友ダチ、イナイ。仲イイ、動物ダケ」と言っていたのは真実だったんだなあと思いました。

日本は好き、タイのことは好きじゃない。みんな同じ髪型、みんな同じファッション。助手席で横顔を曇らせるゴップさんに、それは日本も同じだと武内さんが異を唱えた。
「日本だって、誰もが誰かの真似です。日本もタイも変わらない。」
ベリーショートのゴップさんは、「ワタシ、髪型、コンナ。『オカマデスカ?』キカレル。ウンザリ。」と深いため息をつき、髪が長くてワンピースを着ている女がモテるのだと断言しました。わたしは、自分もつき合うならそういう女がいい…とつい思ってしまったことをゴップさんに気取られませんようにと焦って、「ぐへえ」という変な相槌をした。
それから彼氏がいるのいないのという話になって、長い髪でワンピースの武内さんが集中砲火を浴びており、ざまあみろと思いました。
ゴップさんはしばらくためらったあとで、「ワタシノ彼氏、コノ人。」と言って運転席のお兄さんを指差し、車中はわたしと武内さんとの嬌声で騒然となりました。
行きの車でも運転手さんとゴップさんは仲が良く、いい職場なんだなあと思っていたのでした。
そうかあ、そうかあ、ゴップさんが楽しそうだったのは彼氏といっしょにいられたからだったんだなあと、きゃーきゃー笑い転げた往路を思い出して顔がほころびました。ゴップさんは本当に、掛け値なしにたのしそうだったのでした。
動物だけが友だちだというゴップさんが、10歳年下の彼氏のことを「コノ人トハ、ワカリアエル」と言った、そのカタコトにも心あたたまりました。彼氏には日本語が通じないので何を言ってもいいのに、ちゃんと彼氏のことが大好きで、変な謙遜をしたりしないところもさっぱりしていてよかった。人間に心をひらかないはずのゴップさんが特別な話をしてくれたことにもじーんときました。空港に着くまで話は尽きずに、友だちみたいじゃんと思った(ゴップさんは心外かもしれないけど)。

到着間際、かばんをごそごそしていたゴップさんが取り出したのは民族調のブレスレットでした。

「オミヤゲ」。
最初からくれるつもりではなかったのだと思います。たまたま入っていたのではなかろうか。
ゴップさん……!
こちらからプレゼントできるものが何もないのが申し訳なく、後頭部にゴップさんを描いて、日本旅行します! という、喜びづらい口約束をしました。でもメールアドレスは「ない」と言って教えてもらえませんでした…。


空港、到着です。

ここでお別れかと思いましたが、チケットを手配するところまで来てくださいました。

「メルアドない」とか言って、女子が番号を教えたくないときに使う「携帯持ってない」的な投げやりな振られ方に自信をなくしていましたが、いっしょに写真を撮りましょうとゴップさんから誘ってくれて安心しました。よかった嫌われてなかった。

武内さん曰く、「なかなか理解されない感性を持ったふたり」なのに、こんなところで話のはずむ人に会えるなんて、と思うと自信になりました。
全部素晴らしかったタイで特に忘れられたくない思い出です。

景色も雑貨も食事もおもしろかったのに、結局は人だなんてと思うとつらい気もした。
海外に行って見識を深めたはずが、やっぱり「人」って……なんか行き止まりだと思った。別に人間が好きで万々歳でもいいのに、そこに閉塞感を覚える自分が厄介でした。


友人知人におみやげを買うのをすっかり忘れていました。
日本にもありそうと思うと何も買えないので、とっちの真似して寄り目で深く考えずに決めました。

さすが、ガイドツアーのおかげで行動にゆとりがあります。
安心安全のスケジュールです。

フリーインターネットサービスを発見。
フライトまでありがたく使わせていただきました。

後頭部ビジネスの旅券申し込みが一件来ていて、今から帰るというタイミングでも全然気がゆるまない。

リュックの中には、旅先であまりにもエピソードがなかった場合に備えて持ち歩いていた卓球セットがあります。登場機会がありませんでしたが、もったいないのでここでゲームをすることにしました。

ふたつ重ねて持ち歩いていたラケットのゴムがなんと溶けてへばりついていて、タイの厳しい暑さを物語っています。

いくよー!

サー!


ター!

サー!

コテン。
ラリーがなかなか続かないので、手足を伸ばしまくってセーブし、最後には総合格闘技のようになりました。

動画はカートにビデオカメラを固定して撮りました。




硬質な床に玉が弾むたびに間の抜けた「コテッ」という音が響きます。
まず空港で卓球をするのがおかしいし、そもそもいい大人のやることではないのですが、TPOがすべてちぐはぐだと突っ込む気にもならないと思いました。

卓球の続きは次のあっきーに回すことにして、搭乗ゲートに移動します。
日本人らしき人も何人かいました。

離陸しました。

着陸しました。

台湾の桃園空港には日本人がますます多く、けれどもあちらは我々を異国の異物だと思って外国語で接してくるため武内さんもわたしも日本語を発する機会を失って、国籍がバレないようにこそこそ振る舞いました。

卓球のできそうなスペースはないかとふらふら歩くので、ひどい挙動不審です。

後頭部をあっきーの顔に描き替えました。



卓球用の無人スペース、確保。

玉が通路の隙間に落ちてしまって、これまでかと諦めそうになりましたが、腕の細い武内さんが回収してくれました。

壁をとっちだと想定して戦います。

ルールがないので熱が入りませんでした。
あと、ピンポン玉は床が絨毯だと全く弾みません。

卓球をやめて武内さんとぺちゃくちゃ話していたら、えっ、日本人だったんですか、と声をかけられて、「まじやばーい」。後頭部を撮られました。撮ってくれた割には、そのあと後頭部ビジネスの説明をしても「へえー」という感じで響いてなかった。


日本に着きました。

武内さんと一緒に京都まで帰ります。

外気が冷たく、季節に体がついていきません。

深夜、帰宅してすぐに、ふくやまアートウォークの作品に使えるパネルがないか必死で探しました。この頃が最もハードスケジュールでしたが、追いつめられていたのでこわいものなしでした。

後頭部は精神的な支えにはなるけど、現実に作業時間が足りないときの手助けにはならなくて、顔はもう足りてるから手が4本くらいほしかったです。

とっち、あっきー、ありがとうございました。
おつかれさまでした………ここで、武内さんから文中の間違い指摘です。

《桃園空港の女の子には後頭部受けていた。興味津々で「超ウケる〜」と言われていた。》

《行きの運転手はゴップさんの彼氏だったけど、帰りの運転手は別の人だった。「帰りの運転手も同じ職場の人だからバレるとやばいけど、日本語わからないから」って彼氏の話をしてくれたんだよ。》

うそだ、だって行きも帰りも同じ顔だったじゃん…。わたしは全然わかってなかったのでした。記憶の改ざんっていうか最初からわかっていなかったことが今明るみになって茫然としています。ゴップさんの彼氏、帰りはおとなしいなーと思っていました……。