後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年5月12日木曜日

関空→桃園

行きの飛行機は桃園空港22時着の遅い便でした。

関空の搭乗エリアに移動して、3つ穴コンセントの真ん中に充電器を挿そうと苦心していると、先に両端を使っていた男性がコンセントを譲ってくださいました。日本人にしてはフレンドリーな対応だと思いました。この年代の日本人だと、もっと周囲に無関心なイメージです。武内さんがリュックからすかさず6つ穴タコ足を取り出して、全員が充電できるよう計らうと、彼が「さすが」と言ってクスッと笑いました。適切なタイミング、正しい発音の『さすが』に、あれ? やっぱり日本人だったと思い直しました。

それからしばらくして慌てた様子で彼はこちらを振り向き、「ちょっと。」とジェスチャーまじりで荷物を指差すとどこかへ駆けて行かれました。「荷物見といて」の意を汲んだわたしたちはその無防備さにあっけにとられ、「……日本人?」「……だと思ったけど外国人だね。」「でも、『さすが』の用法、あきちゃんの日本語よりネイティブっぽかったよ。」などと、大量の紙袋を見守りながらボソボソ話しました。

「ありがとう〜」の言葉とともに戻ってきた彼に直接、日本人か尋ねると「台湾人」。あちらからも間髪入れず「日本人?」と訊き返され、よっぽど「ベトナム人。」とか適当なことを言おうかと思ったけど、「大阪?」とさらに踏み込まれて、つい「京都。東京。北海道。熊本。」と、嘘なく生い立ちを語ってしまいました。そしたら相手は「水前寺公園」とかやたら細かく日本各地をご存知でうれしくなったのでした。
出発する便のアナウンスが始まっても会話は止まず、自然な流れで3人いっしょに並びました。
「日本語うまいね!」「わたしたちも台湾が大好きだよ!」「先月も行ったよ!」「先月じゃないよ今月だよ!」「わたしたちこれから台湾横断するんだよ!」
わいわい話しているうちに急速に仲良くなりました。
名前を倫と言いました。

機内通路の入口で「何番?」座席番号を聞くと、「A27。」
「ええええ!? 本当!? わたしたち28!!」
ここでお別れかあ、寂しいなあ、楽しかったね! の言葉を完璧に用意していたのに、拍子抜けしました。
お別れを言いそびれて前後に座りました。

3列シートの窓際が武内さん、真ん中がわたし。倫が真後ろを振り向いて、通路側の方と何やら早口で話し合っている…と思ったら座席の入れ替えが行われ、倫が隣に来ました。

うおう……!
全然お別れじゃない……! 
っていうか4時間ずっと隣同士は疲れる……!
しかも上着を脱いだらタイガース……!! 大阪愛、濃い!!!

しかし質問攻めにして疲れさせたのはこちらのほうでした。


筆談も交えて話しまくり、気をつかって「眠い?」って聞いたら本当に「ちょっと寝る。」と言い渡されてかなしかったです。わたしは目が冴えて眠れず、置き去りにされて悔しい思いでした。


武内さんが「飛行機で寝ないくるちゃんなんて初めてじゃない?」と言いました。おっしゃる通りでした。
到着間際になると、入国審査のための出入国カードがまわってくるのですが、わたしはここ数年、記入した記憶がありません。名前、住所、機体番号、パスポート番号。離陸とともに寝入って着陸するまで起きないわたしのために、武内さんがいつも代理で書いてくれているのです。そしてわたしはいつも、記入済みカードを寝起きの粗暴な動作で当然のように受け取るのでした。
この日もカードが配布されたので無言で武内さんに押し付けたら、「起きてるなら書きなよ!」と言って怒られた。
「でも、本人に書かせて機嫌悪くなられるより、黙ってあきちゃんが書いといたほうがあとあとのためにもいいでしょ……?」と、思いやり溢れる微笑みで言うと、武内さんが思わず納得していてすごい不憫でした。
武内さんにはこの調子でますます徳を積んでほしいです。