阿素湖素子さん。
変換が一発で出てきません。ひらかな表記にしてしまいたいです。
「阿素湖素子」はペンネームだそうです。
植物に例えると、「ツタ」という感じの方でした。
六甲植物園では、短いけれども痛快なやりとりを交わしたように記憶しています。内容は忘れましたが、お茶目なトークにすっかり絡め取られました。
すごい、ひょっとこみたいになりました。ご尊顔を忠実に再現しようと苦心した成果です。
ホテルに荷物を置いて、メテオラ観光へ出かけました。
メテオラは「空中に吊り上げられた」という意味です。
奇岩の頂上には修道院が立っており、現在でもなお、敬虔な修道士たちが厳しい戒律を守りながら共同生活を営んでいるそうです。
すごいうらやましいんですけど、なんかそういう…スパルタスロン完走を目指すランナーたちの厳しい道場とかないかな? 入会したいんですけど……他者に依存してる時点で門前払いでしょうか。
頂上まで登ると良いトレーニングになりそうな断崖絶壁ですが、現在時刻は夕方5時。日没までの時間と体力との双方が不足しているので、とりあえず手頃な坂道を当たってみて、岩に迫れるところを探すことにしました。
わたしは、崖や岩の断面がとても好きです。
いつまでも眺めていたいです。
幾重にも積もった層が、パイを想起させるからだと思います。
結局食べ物です。
この奇岩は、たくさん気泡のあいたパン生地のようでもありました。
あてずっぽうで歩いていたのですが、運良く登り口が見つかって早速アタック。
ずんずん登ってうしろを振り返ると、瞼を射るまばゆい光線!
あきちゃーん! ちょっと左に寄ってくれるー!?
はあーい!
スパーン!
聖書にこういうシーンなかったでしたっけ、キリストが海面に足を置くと、海の水が彼の左右にゴオーっと分かれて、向こう岸まで渡りきれちゃう超常現象。(モーゼの十戒の間違いでした)
武内さんから放たれた光が大地をまっぷたつに切り裂いているような、「超人武内」を表現する一枚が撮れました。
阿素湖さん、岩肌にあちこちある穴ぼこを探検します。
月面のようなクレーターに目を奪われました。
気づくと頭上にはクレーターに擬態したミツバチ(か何か)の巣もあって、ひいぃ!! 身の毛がよだちました。
ハチは留守でした。何よりです。
良い隠れ家だなあ。
ここが今晩の寝床でもよかったね、と言ってみたら、でもビデオ充電できないからホテルで良かったよ、と真顔で返されました。冗談だよ。
わたしたちの頭上では、メットを装着してザイルを持った、本格クライマーふたりが、いよいよ頂上に達そうかというクライマックスです。
てっぺんから見える景色はどんななのかな。
わたしたちの身の丈では、悔しいかな、このあたりまでが限界です。
阿素湖さん、おーい!
西日が苛烈でした。
わたしはもともと岩が好きなのでそれはもう、この景観がとてもうれしかったのですが、武内さんはどうかな、退屈かな、とメテオラに向かう車中では少し心配していました。
けれども立ちはだかる奇岩群を前にした武内さんはわたしに負けないくらい、すごいねすごいね来てよかったね! を連呼していて、なんで? だって、ガイドブックとかで見てたじゃん、そんな乗り気じゃなかったじゃん。
いぶかしむと、だーかーらー、ガイドブックとか見ても情報が入ってこないんだってば、実際見てみないとわかんないんだってば、と、まるでわたしがわからずやみたいな扱いで腑に落ちませんでした。
いや、でも想像できるでしょ。
できないよ。まだ見たことないものを想像なんてできないよ。
そういえば武内さんには、地名も駅名も見どころも何も、紙面から得た情報をインプットする機能がちょっと引くぐらい備わっていません。そういうとこも天才肌的エピソードとしておいしくて、悔しいわたしは心の中で「そうやっていつまでも感性研ぎすませてれば?」と悪態をついた。
かなわないんだもん。
ピクニックの歌を仲良くうたって下岩しました。
なんでもない家の背後にそびえるのが、マンションじゃなくて岩だというだけでわたしの鼓動は昂ります。
それでも阿素湖さんは、絶景がなんなの? とでも言いたげな、人を食ったような面持ちをずっと浮かべていて、自分の正面と後ろの顔とで感情が分裂していました。
この無感動な表情、好きです。
ふもとのカランバカ村を歩いていると、すごくかわいい子ども用のセーターがあって…。
じっと見ていると、
くるちゃん着れないでしょ?
武内さんに憐れみの視線を向けられました。
地下にひろがる薄暗い店内は、様々な毛皮やミシンでごったがえしています。
あの、すみません。こんにちは…? どなたか…。
行きの飛行機の中でディズニーアニメ「アリスインワンダーランド」を観たばかりだったわたしは、まるで自分がアリスになったかのようなファンシーな気分でいたのですが、「お前が? アリスだと?」また憐れまれそうなので、口に出すのはやめました。
スーパーではレジのお兄さんがナチュラルにわたしの隣に来て写真におさまられ、明らかに暇を持て余している風情でした。
二度目に同じスーパーに行った時にはレジ担当がお姉さんに変わっていて、今度は後頭部の阿素湖さんには脇目もふらずに職務を全うされていました。
夜は、明日からの旅の予定が決まっておらず、これからお金がいくらかかるかわからないので、持参したインスタントみそ汁と2ユーロの缶詰とでひもじい食事をしました。
けれども久しぶりのおみそ汁はこの世のものとは思われない旨さで、マルコメ最高(永谷園かも)。
世界遺産と阿素湖さんとをコラボさせられて幸せです。
ありがとうございました!