真夏に月間千キロ走りこんだとか、ウェアに保水力の高い素材を選ぶとか、首周りを冷やすとか、サングラスを忘れない、とか。お水を一気に飲むと内臓に負担がかかって吐いてしまうから、ボトルを持ちながら少しずつ補給する、とか。
そしてわたしの暑さ対策はというと、運を天にまかせるという極めて土着的な対策…(対策ですらない)。
わたしは絶対運がいい、だから今年は絶対暑くない。
かみさま、これがわたしの人生のピークでいいので、どうか今年のスパルタを涼しくしてください。
スパルタの走法よりもむしろ呪術を習得しようとしているみたいに、「晴れるな」という祈りを毎日毎晩捧げました。
それでいてそこには別に何の信用もありませんでした。わたしの祈りを聞き分けてくれるほど暇なかみさまなどおらぬ。自分の神通力を信じるほど間抜けではなかったのですが、なんと本当にスタートから小雨の降りしきる絶好の気候に恵まれて、こんなに涼しいスパルタは初めてだと、周囲のランナーのおしゃべりがあちこちで聞かれました。
聞けば聞くほど今年しかチャンスはないと思えて、わたしは地面を強く蹴りました。
もちろん晴れようが暑くなろうが、出る限りはリタイアする気なんてさらさらなかったけれども。
42km、フルマラソン地点の通過タイムは4時間20分くらいでした。
これはなんとわたしのフルマラソンの記録のベスト3に入る激走なのでしたが、それくらいがんばらないと前半の厳しい関門を通過できないので、ただ必死でした。
20km過ぎと、40km付近で武内さんの応援を受けたあとは、80kmの第一関門まで会えない決まりです。80kmマラソンだと思って懸命に走りました。
この涼しさの0.3%くらいはわたしのおかげですよ! と内心思っていたら、午後からはよく晴れて、それはわたしのせいではないと思った。晴れ男、だれだよ。
厳しい日差しにうつむいて、一歩一歩を進めました。
エイドでしっかり給水すること、塩を舐めて脚がつらないようにすること、少しずつでも固形物を食べてガス欠を防ぐこと。
エイド毎に設けられている足切りタイムに20分の猶予を持って進んで、80km関門は通過できそうだと確信を持ったのはいつ頃だったでしょうか。
しかも、80kmさえ越えたら、完走できるって信じていたから。
あきちゃん、あきちゃん、わたし完走するよ。
うまくしゃべれないくらい苦しい呼吸にまかれて、「完走の一念を、この歪んだ顔にどうか読み取って!」
そう願って、あきちゃんの待つ80km関門にクローズドの29分前に飛び込みました。
わたしの渾身の顔芸はちゃんと通じて、「絶対完走ー!!!」あきちゃんのはずんだ声援がいつまでも背後で揺れていた。
それはそれは感動的な場面のはずでしたが、後頭部の物珍しさのせいで取材の方があきちゃん以上に追っかけてきてくれているので、それでなんか、どっちに気をとられていいかわからなくて、とりあえず顔芸、顔芸で、「取材に応える余裕ないですソーリー」とアピールしました。
関門では、あきちゃんはもちろん、他のランナーの応援でいらしているサポートの日本の方々もあたたかく迎えてくださったのが、わななくほどうれしかったです。
絶対完走、絶対完走、絶対完走。
息苦しくて言葉にはできなかったけど、どうか通じてください、皆にこの気持ちを伝えてください…。
後頭部に描かれた人間離れしたあきちゃんのデカ目に、完走への切なる願いが浮かんでいますようにと思いました。