メテオラからテッサロニキまでの中継地点、パレオファルサロス。
こちらの鉄道ダイヤは日本のように正確では全然なく、発車も到着も基本遅れる。例外はありません。少なくともわたしたちの経験では100%の確率で遅れています。
後頭部、新しい顔に描き直せそうじゃない?
1時間くらい乗り継ぎ待ちする心づもりでとんぼせんせいの顔を消したら、こんな時に限って意外と接続が良く、のっぺらぼうの状態で列車を迎えてしまいました。
車中でクジをひいて、出てきたお客さんは「あじっちさん」。
「エネルギーに惹かれた」と六甲植物園で撮ったお写真を送ってくださいました。
Tシャツが653だ!! ロッコーミー…!
ご参加いただけてうれしいです!
ありがたいことに車内はすいていました。
揺れさえなければ、後頭部に顔を描くのに適した環境です。
しかしわたしは情けないことに「揺れ」に弱く乗り物酔いをしがちなので、武内さんに後頭部描きを丸投げしました。
揺れさえなければ、後頭部に顔を描くのに適した環境です。
しかしわたしは情けないことに「揺れ」に弱く乗り物酔いをしがちなので、武内さんに後頭部描きを丸投げしました。
…それ、けっこうデリケートな問題じゃない? と思いました。
屋外にはかわいらしい乗り物の展示物が。
例えば自分がこの街に住んでいて、この駅の定期的な利用者だったら、このオブジェには見向きもしない、というかたぶん存在に気づきもしないんだろうな。
いつもツーリストみたいな新鮮な目線でいなくてはと思う反面、その気迫を保ち続けるのはとても難しいことだとも思います。
わたしの一番の願いは、どこに行きたいというわけではなく国境をまたいでマケドニアに入国することです。
しつこいですが、スパルタスロンに「負け」たから、それでマケドニア…。
もしも今日中に出発する便がなければ、移動は諦めてテッサロニキに泊まろう、船でどこか島に遊びに行ったりしよう。
もしも良い時間に列車があったらば、帰りの飛行機もちゃんと押さえてからチケットを買おう。
まずは相談だね。
スコピエ(マケドニア)はテッサロニキとベオグラード(セルビア)との通り道に位置します。
地図を握りしめて、駅の窓口に突撃です。
今日これから出発する、スコピエ、ベオグラード行きの列車はありますか?
あるよ、夕方3時45分発だよ。
スコピエには何時に着きますか、ベオグラードには何時に着きますか。
スコピエに夜8時、ベオグラードには朝6時。
おお! ナイスです。
(あきちゃんと目で話す。いいよね? いいね!)
それ、ください!
…どっちだよ? スコピエとベオグラード、どちらに行きたいの?
ああ、そうか。えーと…。どっちにも行きたいんです…。ちょ、ちょっと待ってください、出直してきます!
お礼を言って、アテネまで帰る飛行機があるかを調べました。
ベオグラード駅にフリーWi-Fiがあって助かりました。
スコピエのほうがベオグラードよりもアテネに近いのに、価格は3万円ぐらい、そして遠くのベオグラードからの便は1万円ぐらい。
決まりだね! ベオグラード、行こう!
当初の目的だったマケドニアは通過することになってしまいますが、まあ、いっか…。
チケットを買いに再び並び直します。
前の人のバックパックの外側のポケットにスニーカーが左右一足ずつつっこんであって、いい考えだと思いました。
ベオグラードまで行けることが決定してほくほくしていたのですが、なかなか自分の順番が来ません。
行列はどんどんのびて、殺気立つ人々の無言の圧力…。
おばさんに順番を抜かされそうになりましたが、闘志を漲らせて死守しました。
トゥベオグラード、ワンウェイチケット、ツーパーソンプリーズ!
さっきのリハーサルが効いて、意思の疎通はスムーズにできたのですが、チケット発行手続きに異様に時間を要しておりしかも急ぐ様子もありません。行列ができるわけでした。
道端ではチェスをしている方々がいました。囲碁将棋じゃないんですね。
信号工事中。
普通の家並みに唐突に現れた、なにごとかが起こったに違いない荒廃した空間。
覗いて、すぐに退散しました。
広範囲にわたって道路工事がされているせいか、空気は悪く騒音はひどく、交差点では車から身を乗り出した運転手同士が罵声を浴びせかけたりし合っていて、都会こわいねと武内さんと言い合いました。
アテネのように観光地化された表向きの顔だけじゃなくて、リアリティのあるギリシャの現場も味わえて良かったけれど…。
とか軟弱なことを言っているのは、気合いが欠けているせいだと思いました。
道中、「チャーチ2km」「ホワイトタワー4km」などの標識がいくつも、親切に矢印を指していて、その中に「ユニバーシティ6km」の道案内を見つけました。
ユニバーシティあるみたいだよー、行って、ご飯食べて折り返さない?
武内さんの反応はいまいちです。
ユニバーシティ行ったら、なんか活きのいいエピソードできるかと思ったんだけどな、あきちゃん学食とか好きじゃなかったっけ。肩を落とした瞬間すっとんきょうな声が聞こえて、「あああああ! 学食! ユニバーシティって、大学か!!」って、がーん! そこなの!? でした。
ああた、ユニバーシティに4年間通ってたんでしょうが!!
「なんか文化的な建物のことだとは思ったよ! 図書館かな? みたいな」ですってよ。
学食案は武内さんにも好感触だったのですが、残り時間が心配だという理由で反対され、いい感じの教会と広場に着いたところで駅へと引き返すことに決めました。
後頭部のあじっちさんが撮影されている間も、前のわたしは寸暇を惜しんでガイドブックのマップを読み込んでいます。
軽食屋へ入ると、何かいろいろオーダーしなければならない複雑怪奇なシステムで、わたしたちは他の方の注文した品を指差して、セイムワンプリーズと繰り返した。
そしたらマフィアみたいな貫禄のお方も来店されて、ハッと背筋がのびました。
マフィアの強力なオーラで背後のあじっちさんがとんでしまった写真…。
それから迷わずに駅に戻って、これから始まる10時間に及ぶ鉄道旅行に向けて、ジェラートで英気を養いました。
いよいよ列車に乗車する際には、「自由席ですか?」と駅員さんに聞きたいのに「自由」の英単語が浮かばず、いい感じの発音で「ズィ、ユ、ウ……?」と、さも英語っぽく完全な日本語で問いかけてしまい、武内さんに「自由=フリーだよ!」と助け舟を出されました。一生の不覚です。
さっきさんざんユニバーシティのことを嗤っておいて…。もう2度と馬鹿にしたりしません。
旅の恥はかき捨てと言うけれど、わたしたちの旅の9割は恥で出来ているので、捨てていたら書くこと何も残らない。
殺伐とした雰囲気のテッサロニキについひるんでいたわたしたちでしたが、馬鹿なふたりの結束力と、それに後頭部の秘密兵器あじっちさんのおかげで、困難を乗り切ることができました。
ほんとに、後頭部に顔があるってだけですごく心のお守りになった。
こんな得体の知れないストレンジャーに、わざわざだれも手を出そうと思わないと思うんだよな。
わたしたち、強いよな。
あじっちさんに、守っていただきました。
あじっちさん、たのしい思い出をありがとうございました!