9月28日の夜11時に、ひろこさんからメールがきました。
「あの…
わたし、誕生日に顔描いてって言ってたけど、くじびきシステムになったから、誕生日じゃなくていいです。くじびきに入れてください。
…なんか、もう忘れてるかもしれないから、かえって催促してるみたいにみえてちょっと恥ずかしいんだけど…
でもどうぞくじびきで。」
!!
わたしたちは、すっかり忘れていました。
明日29日がお誕生日だということも、ひろこさんと交わした「誕生日に顔を描く」という約束も。
くじびきシステムにしてよかった!
ひろこさんご連絡ありがとうございます! あやうくすっぽかすところでした。
一週間前まではもうすぐひろこさんのお誕生日だって覚えていて、しかも何度となく思い出していた、という意味で、「もちろん覚えています」と返信しました。
嘘ではない。
ギリシャ時間でぴったり29日の深夜0時、わたしと武内さんとで、ひろこさんへのバースデーメールを送りました。
「ひろこさん、50歳の誕生日おめでとうございます!」
四捨五入してもまだ50歳ではないと怒られましたが、ひろこさんが50歳を迎えるまで、わたしたち、毎年50歳おめでとう祝いをしますよ!
だから、これからもずっと(少なくとも50歳までは)大好きでいますと思った。
お誕生祝い、何をしよう?
特別な一日がいいな。
朝食時にいっしょになったランナーの方に、港町ピレウスまでご案内していただけることになりました。
ピレウスまでは15km。
時速9kmがこの時のわたしの最速ペース(遅い)。
前を行くランナーの背に必死でくらいついて、遠くにこんもり浮かぶピレウスまでの長い道のりに、きびしく思いを馳せました。
空をうつして、海はまぶしく紺碧です。
わたしはリタイアした心も足もまだまだ癒えぬままで、美しい景色には頬が歪むし、こびりついた左足の痛みには自動的に眉根が寄る。
大会前、ひろこから受けた励ましが脳裏をよぎりました。
疾走の荒い呼吸に嗚咽をさりげなく紛れ込ませて、涙と汗とを流し続けた結果、ピレウスに着く頃にはひろこさんの顔はずいぶん薄くなっていました。
自分が踏んだ地面とだけ友だちになっていいルール。
もっと、たくさんの世界と知り合いたいな、自分の足で。
痛みは力、痛みは希望。
わたしも、ひろこみたいな50歳になりたいです。
それから、いっしょに行ったランナーの方にお誕生日をいいことに素敵なカフェでスイーツをごちそうになって、わたしもあきちゃんも、彼が好きだと言って困惑させた。
ピレウスの街並みはお菓子みたいにかわいくて、細部にも意匠がゆき届いていて、どこを切り取っても特別な風景でした。
ひろこもいっしょだったら良かったのになってすごく思ったけれども、わたしもあきちゃんも後頭部のひろこをどう喜ばせるかずっと考えていて、ふたりのたのしい気持ちがひろこのぶんも倍になってまた倍になって、もこもこ膨らんでいくのが魔法みたいでした。