靴紐に、タイム計測用のチップを通します。
……走りはじめて間もない頃、何かの大会で上位に入ったことがあって、わたしはただもううれしくてびっくりして、先生ー! マラソンで入賞した!! とかなんとか。無邪気に先生にメールしたのでした。
そしたら、本気でやってみーひんか、っていう思いがけないお返事がきて、わたしは人に期待されている自分が信じられないほど誇らしかった。
けれどもわたしの「本気でやる」は、百均に売っていそうな、簡単にぶっ壊れてしまうやつでした。
わたしは先生の託してくれた期待を幾度となく裏切ったのでした。
安い本気を新しく買い直してはすぐ壊してしまって、しばらくは先生にバレないように素知らぬふりでつなぐのですが、すぐにガタがきてることが露呈してしまって、「本気でやる気がないならお前もうやめろ」の言葉に、慌てて「今度こそ本気でやるから」って、またしょうもない本気を手に入れて。
ちゃちな大量生産の「本気」を、わたしはどれだけ生み出したことだろう。
なぜ自分はほんものに生まれてこられなかったんだろう。
先生はわたしがにせものになる度に本気で叱ってくれて、何度も見放してムチで叩いてくれたのですが、わたしは自信も確信も何も、何も準備ができないまま、明日は大会当日です。
先生、でもわたし、絶対、あきらめないから。絶対。
きっと、絶対完走するから。
大丈夫だから…。