スタート地点のアクロポリスは雨でした。
前夜、寝られない寝られないと思ってベッドの中でイライラブログを書いていたらそのまま混沌としたイメージの渦に自然に突っ込んでいけて、よし、眠れる! と思ったところまではぼんやり覚えています。
目が覚めた瞬間は、うわああああ! 眠れたよー!! って心の中で勝鬨をあげたのですが、時計を見てみたらまだ1時半でがっくりきました。
それから再び寝入ろうとしても叶わずに朝を迎えて、「寝られなかった…」とちょっとしたパフォーマンスのつもりで憔悴してみせたら、やばいやばいって武内さんが尋常じゃなく慌てふためくのです。な、なになに、大丈夫だよちょっとは寝られたし! と、わたしも慌てて元気をアピールしたところ、心底ほっとした顔をされたので、なんだよなんだよー、そんなに心配するなよーとホロリときていると、「ブログにくるみちゃんよく寝たって書いちゃったから怒られると思って」というのが、武内さんの変なリアクションの真相でした。
寝てない自慢のリア充みたいなことした自分がもちろん悪いのですが、スタート前にそんな自分の恥ずかしい自己愛に気づかせないでほしかった。
いっしょに寝た先生の顔(安眠効果なし)を消して武内さんの顔を描こうと思いましたが、しかし描き直す時間はなく、やむなくバスでスタート会場に着いてから武内さん自身の手で自画像を描いてもらいました。
目おおきすぎでしょ!
これ、妖怪でしょ!!
「わたしだっていよいよスパルタスロン当日ですごく動揺してるんだから! 言っとくけどこの顔今まで描いた中で一番変だからね!」というのが、逆ギレした武内さんの弁です。
夜でもよく見える、濃く、はっきりした顔にしなきゃと思うとこうなったらしいです。
わたしは、とにかく自分の後頭部が日本の選手のみなさんのノイズになることを心底怖れていたので、隅っこの目立たないところでずっと、数人の外国人からの「写真をとってもいいか?」をさばいていたのですが、しばらくしてから武内さんに押されるように、体を人垣の内側へそっと滑りこませてみました。
そんなこんなで、腰を据えて本格的にナーバスになる隙はなくて、気がつくともうスタート一分前。
選手とサポートメンバーとの仕切りもなくて、最後の最後の走り出す瞬間まで、武内さんがそばにいてくれました。
スタート前の激しい不安に苛まれることなく走り出せたのはよかったものの、これがスパルタスロンなんだな、ずっとこの瞬間を待っていたんだなと発語してみても、何かすべて夢の続きみたいで、現実感が希薄でした。
脚が痛くなるまではずっとふわふわ、夢みたいだと思って走っていた。
自分の体が現実の存在だと知覚できるようになったのは、80kmを過ぎてからでした。