山口さんの顔を描くのも３回目です。
初回はバランスをとるのに時間がかかった似顔絵も３回目ともなると慣れたもので、あっというまに出来あがりました。
ダラスフォートワースで乗り継いで、伊丹空港からメキシコシティへ行きます。
当初予定していたインド旅行は、ビザ取得に失敗したのと治安にひるんだせいで今回は見合わせることになりました。
年末訪れた美術館で偶然、久しぶりに会った大学の先輩が、メキシコで版画のグループ展をされるということで、武内さんも誘ってのっかることになりました。
アメリカン航空に初めて乗りました。
映画の種類がものすごく少ない上に、３０分毎に上映される自分のタイミングで見られないシステムでした。
ぶーぶー文句を言いながら、日本でも観た映画をまた観ました。
結局３度観た。
武内さんと感想を言い合うコーナーでは、意見の相違がほぼなくて喧嘩になりませんでした。
ダラスでの乗り継ぎ時間は短く、広い空港内で右往左往している間に、バタバタっと搭乗して、そこからは５時間ほどでメキシコに着きました。
版画の入った大きな段ボールも、出国の際の荷物チェックをくぐり抜けました。
タクシーの運転手さんが後頭部に大ウケで写真を撮ってくれて、早くもメキシコに対する手応えを感じました。
あたたかい国の人々は陽気だと言われていますが、異議なしです。
先輩のご友人宅に荷物を置かせていただいて、市内観光に出発しました。
治安がよくないところもあるから貴重品にはくれぐれも注意するようにとのお言葉に、改めて気を引き締めました。
地下鉄乗り場です。
すごいウニみたいなものが視界をよぎったけどウニがいるわけないし気のせいかなと思ったら、本当にウニでした。
こわそうに見えるけど本当はこわくないんだろうな、触っていいか聞いたらきっときさくに応じてくれるだろうな、と変な髪型をしている同業者の直感で確信しましたが、勇気がなくて話しかけられなかった。
諦めきれずにそっと尾行。
画面からウニが見切れないようにして密かな満足感を得ました。
公共交通機関を使うと、一気に外国に来たぞー！ という気持ちが昂りました。
夢中になっているうちに、いつしかウニとははぐれてしまいました。
先輩のおすすめする日曜市へ早足で向かいます。
夕方５時には終わってしまう骨董市に間に合うよう、最小限の道草で飛ばしました。
ケーキかなケーキかな甘いやつかな！
早速食べ物に気を取られましたが、先輩の姿を見失わぬよう、意識を前方に集中させました。
左右にぎっしりお店がひしめく迷路のような細い通りを、ばっさばっさと大きな足さばきで前進しながら、時折後ろを振り返って武内さんがついてきていることを確認。
大量に掲げられている衣料品は、特にメキシコっぽいということはなく、近所のなんでもやさんにありそうな品々に見えました。
迷いのない先輩の足取りに続いて、似たような店構えの並ぶ通りを脇目も振らずに闊歩していくと、通りを曲がったところに今までとは毛色の違う市場が広がっていました。
愉快な骨董品がいっぱいです。
色とりどりの手刺繍に目を奪われます。
お面や人形もとてもかわいくて物欲を刺激しましたが、片付けのできない自分の能力を鑑みて、煩悩を滅却しました。
あと、どうしても欲しかった場合、武内さんに発注したらつくってくれるんじゃないかと思った。
持つべきものは美術家の器用な友人です。
物欲から解き放たれて、商品をちまちま見るのではなく遠い目で空間を捉えるようにしたら、ちょっと異様な光景が目に入りました。
浴槽と…髪？
唐突な風呂桶に釘付けになっていると、お店の方が「入れ、入れ」と身振り手振りで勧めてくださいました。
言葉はスペイン語がほとんどで英語を話す人はあまりいませんでした。
風呂桶にうずくまっていると前回箱根で温泉に浸かったことを思い出しました。
山口さん、お風呂づいています。
このお風呂にお湯は入っていませんが、衆目にさらされている緊張で全身が芯からあたたまりました。
メキシコの治安についてかなり恐ろしい話も聞いていたので、大丈夫だよね、後ろから刺されたりしないよね？ と警戒心でかたくなりました。
貴重品に気をつけながら後頭部サービスに励むと肩に力が入ります。
ああああ本当の温泉に入りたいなあと日本を懐かしみながらも、メキシコの方々の笑顔の引き出しの多さにはこちらも明るい気持ちになりました。
山口さん、江ノ島に箱根にメキシコに、本当にありがとうございました！
おつかれさまでした！！
