後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年3月12日木曜日

6日目、さやかさん52km

川本さやかさん、六甲ミーツアートに2年連続でいらして下さいました!

去年。

今年。
つい昨日のことのようですが、なんともう半年が過ぎているのですね。
あっけないというかなんというか、反省してます。


似顔絵は、ふたつの写真をドッキングして描きました。
笑顔がキュートです。
ほくろの位置を注意深く決めました。

おはようございます!
後頭部がさやかさんだと、やけくその伸びも爽やかな朝ショットになりました。

後頭部に比べて正面のわたしは毎日変化に乏しく、新鮮味がありません。

今日は333kmマラソンの最終日。
フィニッシュに向けて、全体の空気が昨日までより一段明るくなったようでした。

皆、自然に笑顔がこぼれてしまうのか、あちこちで写真のフラッシュが焚かれていました。

ゼッケンに全員分のサインを求めて巡回するランナーの方も。
信じられない社交性でした。
青いTシャツの胸にTOKYO2014のロゴがあることには、今写真を見て初めて気がつきました。日本人に、「東京!」って気づいてほしかったやつかな、それともナチュラルに着ていただけかな、前者だったら申し訳なかったと思いました。


台湾で日本のマラソンは人気が高いらしいのですが、エントリー代も台湾に比べるとずっと高額です。東京マラソンはもしかしたら台湾ランナーにとって一種のブランドなのかもしれません。

武内さんは開放感で晴れ晴れとした表情です。

父も、タイムは落ちているものの順位はさほど変わらず中盤を堅守しているそうで、故障なく順調に最終日を迎えました。

わたしはごはんの間、左斜めに座っている女子のポシェットの「Love Peace」の文字をじっと見ていたらだんだん気持ちが悪くなってきました。

お皿ががちゃがちゃ言う音も急にうるさく感じられて、静まれ静まれ! と強く目をつむりました。

レース中、写真を撮れるかわからないから今のうちに、と部屋へ戻るまでの間に枚数を稼ぎます。


おっちょこちょいな寝癖がチャーミングです。
前夜わたしは寝言で「ギャアー!!」と叫び、びっくりした武内さんに「どうしたの!」と問われると「てめえが夢の中でよお!!」とキレたらしい。起きて告発されました。夢だってわかってるのにキレるとかひどいですね。なんか夢で武内さんが牛乳をばらまいたりしたんですよ。
武内さんは「てめえ」と呼ばれたことに引いていましたが、わたしは「よお!」という語尾に驚愕しました。深層心理がいかに荒んでいるかがわかりました。

出発までゴロゴロして寝癖を整えました。

去年は最終日の成績が最も良かったので、今年も頑張ろうと内心気合いを入れて、スタートです。

なるべく最初から飛ばして行こうと走っていたら、2kmもしないうちに胃液がせり上がってきました。朝食後、武内さんに「なんか吐き気がするよう〜」とか言って甘えていたのはほんの冗談のつもりだったのに、意外と本当に気持ち悪かったんじゃん! と知って、自分がかわいくなりました。これで寝言の件はチャラにしてくださいねと思いました。

もうだめだと思って立ち止まって体をかがめたものの涙と唾しか出ず、少し歩いて徐々に走り出しました。
100km以前で吐き気が起きるのは初めての体験です。衝撃で落ち込む。
ペースを下げ、10㎞エイドでは飲みものをいつもの半分にしました。呼吸はすぐまた苦しくなったけど、もう気持ち悪さはありません。なんだったんだろうと不審がりながらもひとまず安心しました。

一時女子4位まで落ちましたが下りのおかげでスピードがあがり、前方、女性ランナーが視界に入りました。
小指の爪くらいだった女の姿が、やがて親指サイズから人差し指サイズ、上腕サイズへとふくらんでいきます。
20㎞すぎ、抜かす。
わたしはラクに走っているんですよ〜という雰囲気を精一杯装って軽やかに追い抜いたあとで、顔を歪めてがむしゃらに引き離しました。

30㎞固形食エイドでさらに女発見。
Love Peaceのポシェットが風にパタパタはためいています。
ポシェット女を捉えてから、しかしなかなか追い越せずにそのまま並走。
相手に苦しそうだと気取られないよう厳しい演技指導を自らに課していると、ポシェットが「わたしはちょっとこっち行くから!(トイレ?) がんばって!」みたいなジェスチャーをして脇道に逸れました。
チャンス。
このまま逃げ切らなきゃと思ってペースアップすると、再び吐き気に襲われました。空気嚥下症も発症。気持ち悪い。絶望。
次のエイドには大好きな緑の甘い液体がありました。三杯飲む。後ろを確認。女の姿あり。油断ならない。いつポシェットに抜かれるかと思うと気が気じゃない。時折後ろを振り返る。ランナーの姿はない。男にも20㎞以降抜かれてない。全力で走る。気持ち悪くない。
体がんばれ
ついてきて!
と願う。


呼吸が苦しいです。
誰に、何に宛てて思うわけじゃないけど、ぶっ殺すぶっ殺すと思いながら走りました。
しばらくは「ありがとうありがとう」だったのですが、なんていうか、語感が攻撃的じゃないっていうか、「ありがとう」だとあんまり調子が出なかった。「ぶっ殺す」の、濁音から促音に詰まって、カ行に転がっていく構成がよく出来ていて、悔しさとか苦しさとか、自分の中の蠢く炎を表現するのにちょうどよかったです。「心の中で声に出して読みたい日本語」ナンバーワンとして、「ぶっ殺すぶっ殺す」をガソリンにして走りました。

ゴールがあると思って期待しちゃうから辛い。
残り5kmっていう永遠、残り1kmっていう永遠なんだと思って走っていたけど、ゴールは来ました。


さやかさん、ゴンシーゴンシー(おめでとう)です!

ありがとうございました!

みんなゴンシーゴンシーでした。
お疲れさまでした!

途中抜かした女は結局ふたり仲良く2、30分も遅れて来ました。
なんだよゆっくり来る気ならそう言ってくれよ。
ムキになってる自分がばかみたいと思いました。それから、心の声が誰にも聞こえなくて本当によかったと思いました。「ぶっ殺す」が活力だったとか自分でも認めたくないです。
ホテルの部屋に帰って、嘔吐。
ここまで保ってよかったです。体ありがとうございました。


それから窓から身を乗り出して、帰ってくるランナーを応援しました。
父も到着。お疲れさま! 猫背でした。

武内さんも帰ってきました。
早い帰還でした。

お疲れさまでした!!
本当に!

ゴンシー!!

ランナーが続々と到着します。
武内さんは今日はギリギリじゃなくて、わたしはもう少しでゴールシーンを見逃すところでした。

日々強くなっていく武内さんが、すごいなあ眩しいなあと思いました。

寒さに震えていると、かぶり物を貸してもらえました。

踊るととてもあたたまりました。

全日程完走、本当におめでとうございます。

わたしは、この日のタイムが去年より1時間も遅くて、今日の、この50kmだけでですよ?
「こどもの頃かわいかった」「若い時モテた」っていうのと同じくらい意味ないけど「前は速かった」というくだらない過去の栄光を、いつまで心の拠り所にするんだろうと思うとうんざりします。

去年はすごかったんだね! 
去年、もっと喜んでもよかったんですね!

今日が333㎞の最終日ですが、この大会には主催者の粋な計らいで、明日、オプションのフルマラソンもついています。
本当にみんな走るのが好きなんですね。

これから表彰式があります。
さやかさんお疲れさまでした!
武内さん、父、皆、全員が完走できて、お揃いのメダルがうれしかったです。
ありがとうございました!