後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年3月20日金曜日

久瑠美さん、さいごの45km

福山でお会いした作家の檜尾久瑠美さんです。
「同じ名前のくるみさんにずっとお会いしてみたかった」とおっしゃってくださって、夢かと思いました。天使のような方でした。
何かの間違いで入れ替われないかなと思いました。



か、かわ、かわ、かわいいい!
旅行用に送ってくださった写真も超絶キュートなのですが、1枚目は口元がわからないし、せっかくだし笑顔の写真に…と3枚目の白黒写真を選んだら、なんか…あまりかわいくなりませんでした…。

これはもう描き手の責任というより、かわいすぎるほうが悪いと思います。

色を加工して、ゆるふわっぽい雰囲気を演出してみました。
かわいい女の子って奇跡なんだなと思いました。

昨日まで6日間続いた環花超級マラソンと違って、今日は単発の池上超級マラソン。
運営スタッフは同じですが、大会名が異なります。
新規ランナーの方も数多くいるので、スタート地点では様々なランナーから後頭部の写真撮影を申し込まれました。
気づくと5秒前のカウントダウンが始まっており、いつしか前方に押し出されていたわたしは、お祭り騒ぎのうちにスタートを切りました。

武内さんは23kmの部に出場。
45kmの部がスタートした10分後に、23㎞の部がスタートしました。

わたしは45kmの部なのですが、フルマラソンよりもたった3km長いだけで『超級(ウルトラ)マラソン』と銘打っていることが、100km経験者からするとなんとなくずるく感じました。
333kmマラソンの参加資格に『ウルトラマラソン経験者に限る』というルールがあるので、45km大会を作って参加者を増やそうとしたのではないかと推察しています。

レースは田んぼ道や川沿いを走る周回コースで、のどかな景色の中にランナーの姿だけが忙しく躍動しています。
折り返しポイントでは顔見知りの方々や武内さんとも行き交えて、互いにエールを送り合いながら走りました。

ポイントごとにズル防止の腕輪を渡されます。
333kmに参加したランナーは黄色ゼッケン、その他のランナーは白いゼッケン。
何百というランナーが参加している中で50名程度しかいない黄色ゼッケンは目を引きます。いかんいかんと思いながらも、特権意識めいたものをつい感じてしまいました。
黄色ゼッケンとのエールや目配せに、昨日までの辛かった6日間を思い返します。白ゼッケンの見知らぬランナーがたくさんいることで、戦友同士の絆に、より意識的になりました。
自分が白ゼッケン側だったら、黄色ゼッケンの醸し出す内輪感に、ケッと思っていたような気がするけれど、実際は白ゼッケンのランナーはとても好意的で、日本語で「ガンバッテー!」と声をかけてくださる方も多く、「謝謝!」「加油!」、わたしも彼らに笑顔で返せるように、ゆっくりペースで進みました。

「アキーコー!!」
笑顔で走る武内さんとも、足踏みをしてほんの少しの間、互いの無事を確認合いします。完走できるかどうか、毎日プレッシャーと戦ってきた武内さんですが、今日は花が咲いたような余裕の笑顔でした。

写真撮影のたびに足を止めて、ハイタッチの嵐をたのしみながら走っていましたが、こんなペースじゃいつまでも終わらないと思って20㎞以降は一生懸命足を動かしました。
もう声を出すのもきついのに、さあペースあげようって時に写真写真で止まらなきゃだったりして、ありがたいけど、なかなか、はやる気持ちがあるから、静止も不十分で結局満足な写真になっていなかったのではと思います。あと、カメラを向けられると当然のように後頭部を見せていたけれど、正面の要望も意外にあって、皆日本人大好きで本当にうれしいです。

ランナーもたくさん、大会車もたくさん通るこの日の大会は、単独走がほとんどだった昨日までとはうって変わってにぎやかで、「クルミ!! ガンバテ!」たくさん、たくさん名前を呼ばれました。
真ん中の「ル」を強く高く発音する外国語っぽいイントネーションで、「クルーミ!」「クルミー!」と連呼されて、今日の後頭部が久瑠美さんで本当によかった、奇跡のような神の計らいだった、と顔を歪めてクジ引きに感謝しました。
クルミさん、今、久瑠美さんは台湾で、すたこら走っています。
全然速くないけど全然すごくないけどただの凡ランナー略して凡ナーだけど、もうやめようと思っていたけどやめなくて良かった!
通りすがりの、知らないだれかからの「クルミ!」がめちゃくちゃに心に染み込んできました。
しみじみ幸せでした。

あと400m。
遠くに武内さんの着ているピンク色が見えました。
「クルミー!」
大きく手を振っているのがぼんやりわかります。
腰の落ちた哀れなフォームで、最後の曲がり角を折れました。

ハー!
着いた!

クルミ、クルミ、の声援に、トレードマークの久瑠美さんの後頭部で応えました。

初めて時計みた!
6時間ぐらいかかってるかと思ったら5時間14分だった!
たいしたことなかった!!

久瑠美さん、お疲れさまでした。
おかげでわたくしは得難い体験をさせていただきました。

走るのをたびたび嫌いになりながら、毎度さぼりながら、それでもやめきれないでいたこの一年を思いました。

わたしが泣いてるのは、後ろの顔のぶんも含めて、ふたりぶんの涙だから、と思った。

楽しく遊びながら走るという初めての体験をしましたが、それでも最後は必死に走れて、大人げない自分を再確認できて、なんだかほっとしました。

一生の、つらさの総量が決まってるとしたら自分からもぎに行ったほうが積極性の点で加算される気がするのですが、それでわたしはつらくなりにマラソンに行ってるんだと思います。
打算的!

かと言って、進んでブラック会社に勤めたり、同居して姑にいびられたりする気にはなれないから、マラソンでもっとがんばります。

救護班の方にマッサージしてもらいました。
久瑠美さんに輝くメダルが誇らしかったけど、前のわたしは首が締まって苦しかった。

武内さんと、完走祝いに冠をつくってもらうよう事前に打ち合わせていたのですが、いつまでたっても現れない冠に、自分から「冠は…?」と申し出るのが切なかったです。


久瑠美さんの被っているお花の冠に憧れたのです。

武内さんに忘れさられていたため急遽こしらえた葉っぱの冠は、見積りよりもわたしの頭の直径が大きくて、ご褒美というよりは嫌がらせに近いものになりました。



お弁当をもらったりなんやかんやしている間に冠はバラバラになってしまいましたが、サイズが小さくてもそれでも、頭にのっけてもらった瞬間の喜びはメダル以上でした。

父もやってきました。

ゴール!
おめでとうございます!

マイクを渡された父は学習中の中国語で完走スピーチをして、皆に賞賛されていました。

父が何を言っているのかわからず寂しい気持ちでいたわたしは、最後に割り込んでマイクを奪い、「ウォーアイニー!!(愛してる!)」と皆に叫んで場に馴染んだ。
おいしいところをいただきました。


ランナーだけじゃなく、観光客の方たちとも記念撮影です。

帰りの電車の時間まで応援を続けました。



続々とゴールしてくる皆の晴れやかな笑顔が最高でした。

お土産を買って、参加賞のお弁当を食べると帰る時間になりました。


武内さんとはここでお別れです。
いっしょに日本へ帰らないのは変な気持ちでした。

チャラ男ことデイヴィッドが猫ちゃんの手で別れを惜しんでくれました。かわいいな!  
「アイミスユー」と訴えるデイヴィッド。
「アイミスユー」って初めて聴いたのはSPEEDのWhite Loveだった、まさか自分がアイミスユーを言われる日が来るなんて…。胸を打たれて中学時代に帰っていると、デイヴィッドがヒトエに見えてきて、もはやヒトエにアイミスユーって言われた気がした。
それからデイヴィッドはうちの父に対してもオーマイフレンド!とハグしていて、生涯友だちゼロを貫いてきた父とフレンドになっていたなんて、さすがチャラ男なだけありました。
父の腰が見事に引けていておかしかったです。

大会本部の方が駅まで車で送ってくれた上に、この土地の名物のお弁当まで持たせてくださって、おもてなしづくしの台湾でした。
忘れられない気持ちを、本当に、忘れないでいられるといいです。
謝謝。
久瑠美さん、最高の思い出を、心からありがとうございました!