後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年4月13日月曜日

中牟田くん、フリーダ•カーロの家

中牟田くんです。
映像学科の大学生の方です。

六甲で、武内さんの映像を誉めてくださって誇らしかったです。

今日はこれからフリーダ•カーロ記念館に行きます。

以前一度通った道なので安心感がありました。

道路脇には、見覚えのないピカピカの車。一瞬、現代美術かと思いました。
結局正体はわからないままなのですが、現代美術の屋外展示だと思って楽しみました。

前回と同じスーパーで買い物をしました。
レジ担当も同じ人です。
会釈を交わして、この土地の住民気分を束の間味わえました。

休館日だった前回、入れなかったフリーダカーロの青い家。


ここから先は初めて見る景色です。
一週間越しの願いがやっと叶って震えました。


この絵いいなあ、と思っていたところに、武内さんが「とても良いね」と言ったので、ますます良い絵だと感じました。
武内さんの価値観に絶大な信頼を寄せるあまり、わたしは自分の意志に自信が持てません。他人の評価をガイドにするって絵の見方として最低です。


そもそもわたしは美大に通っていたくせにフリーダを知らず、メキシコ行きを伝えた友人に「フリーダカーロいいよね!」と言われて初めて、フリーダを調べました。
フリーダは眉毛のつながっている自画像をいっぱい描いている人でした。
友人には「フリーダ有名だよ。すごい美人だよ。見たらわかるよ。絶対知ってるよ。」と自信たっぷりに言われていましたが、わたしは間違いなく初めて知ったのでした。
それでフリーダ、フリーダとにわかに騒いでいるのだから、本当にからっぽだなと思いました。

でも、ただのミーハーのわたしでも、いや、ミーハーだからこそ、フリーダの波瀾万丈の人生にはぐぐっと力が入りました。
展示室には絵画だけでなくフリーダの着ていた衣装なども飾られていたのですが、この一見美しいドレスには無数のピンがぶっ刺さっていて、女の狂気に背筋がひやりとしました。
ただのメンヘラじゃねえのと言いたくなるところですが、事故で体が不自由だった彼女の傷ましい背景を思うと、作品に強烈な説得力が生まれます。


フリーダの生家であるこの記念館には、ひとりの女性のどう考えても普通じゃない感受性が、いっぱいに詰まっていました。

「バラガン邸も良かったけど、こういう台所でもいいわ。」と感受性モンスターの武内さんが高飛車に共鳴していたのですが、わたしはその上から目線につっこむ気にもなれず、あきちゃん眉毛太いとことかフリーダに似てるもんねと思いました。


武内さんは九州出身です。
自由な感性って、南国生まれの人種に特別多く備わっている気がするのですが、北国出身の自分はすごいハンデを背負っているのだからもっと努力を評価されていいと思いました。

庭の一画にも展示がありました。
くびれのない胴体に、単純だけど豊かな顔つきの彫刻が並んでいます。

庭のあちこちにうずくまっている石像も、とにかく顔が全部よかったです。


口をあんぐりあけていたり、歯をむき出しにしていたり、目を見開いていたり、激情系の表情なのに全員まぬけづらで、フリーダ作品のような圧迫感がありません。

そういえば、ここはフリーダだけでなく、フリーダとディエゴの、ふたりの家です。

ディエゴ•リベラの作品がどんなか全然知らないけれど、どうもこれらはフリーダ作ではなさそうだし、じゃあディエゴの作品なのでしょうか。

ディエゴはフリーダの結婚相手でありながら、フリーダの妹とも寝たりした、節操のない男です。
もっとすかした作品をつくる人だと思っていたので、朴訥とした雰囲気がとても意外でした。

水泳帽の男の恥じらいのポーズがかわいかったです。
変な男にひっかかってバーカと思っていたのですが、これらのディエゴの作品でフリーダの印象も良くなりました。


青と黄のごりごりの補色で押しているのに、不思議と落ち着く空間です。

たまに写真も撮られました。


顔出しパネルにふたりで入りたくて、さっきの写真の人に頼んで我々も撮ってもらおうよ、とモゴモゴ言っていたのですが、勇気がなくて後から合成しました。

中牟田くんの顔が暗いことを除けば、ほとんど違和感のない一枚に仕上がりました。



広々とした庭に鎮座する生き物たちが絶妙にとぼけています。
屋内展示でフリーダのむごたらしい運命に息苦しさを感じたあとの、この外の開放感は、なるほどすぐれたバランスだと思いましたが、「内」と「外」は、「追いつめられる女」と「呑気な男」の象徴のようにも感じられました。

フリーダの展示室は、絵の部屋の他に、豪華衣装の部屋、義足の部屋など、いくつかありました。
どれもずっしり重かった。
重かったが、そのぶん真剣に、表現の重みについて考えることができました。
写真がないのは撮影不可だからです。

その点、庭は自由でした(合成)。


フリーダのファンはもちろん、ミーハーな浅いファンでも、美術に興味のない人でもたのしめる、万人に開かれた記念館でした。

「思ってたのと違った! すごくよかった!」と、武内さんの想像を上回れたことにもほっとしました。

今回で旅は一段落のつもりです。
なるべくひねくれないで、素直な思い出だけを残したいと思いました。


瀟洒な建物が立ち並ぶ、コヨアカン地区を歩きました。


どことなく、ヨーロッパの雰囲気も漂っています。


イダルゴ広場では忙しそうな人をひとりも見ませんでした。


のんびりした足取りで皆散策を楽しんでいます。

サウファン•バウティスタ教会。
豪奢すぎない装飾が祈りを妨げない、心安らぐ教会でした。


暗い教会を出ると光がぶわっと押し寄せてきて、あまりに眩しい日光に、急に刹那的になって教会を振り返りました。

旅が終わる…!



あれもこれも、忘れたくないと、欲張りになってシャッターを押しました。


暑さが少しゆるんで、夕暮れが影に覗いていました。

中牟田くん、ありがとうございました!