後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年4月7日火曜日

嶋津さんと、絵、絵、絵

 
嶋津充さんです。

「背景に絵があるね、美術関係の方なのかな。」
「美術館に行って絵を見たりする、しっとりした旅にしたいね。」

そんなことを話しながら描きました。
ストールは洋服の袖で代用したので、正面から見るとよだれかけのような謎のファッションになっています。


ユースホステルで早速、濃い顔で濃いノリのスピリチュアルな男に後頭部を激賞されました。
彼はミュージシャンだそうです。
その前にさっきここで出会ったイタリア人は絵描きだったし、音楽だとか絵だとか、どいつもこいつも。
皮肉な気持ちになりました。
もちろんその際自分たちのことは棚に上げて、「わたしたちは違う」と思っているわけですが、彼らも「自分は違う」という気持ちなのかな。それとも、「芸術の輪サイコー」かな。
後頭部に顔を描いたりして、自分だって完全にやつらサイドの人間なのに、「遊んでないで定職つきなさいよ」と親戚のおばあちゃんみたいな目線でミュージシャンを見てしまいました。

大の大人がエネルギッシュに生きている自由な姿に勇気づけられてもいいはずなのに、なんかむかつきます。
突如むくむくと反抗心が頭をもたげてきました。
明日から、つまらない顔をして勤勉に働きたいと思いました。

自分は一般的な社会人に見えますように!
そう願いながら写真に写りました。

教会の中にある博物館に行きました。

どの部屋も混沌としています。

展示物があまり貴重じゃなさそうな展示で、見る者に親近感を与えていました。

絵もありました!
展示がガッタガタですが、一点一点は見ごたえがあります。
こんなに水平が滅茶苦茶な展示は美術館ではなかなかありません。
嶋津さんの顔が暗いのは、心情表現ではなく照明のせいです。

美術館を出て、ふらりと入った教会でちょうど礼拝が始まりました。
退出する機会を逸して一時間に及ぶお祈りに全編参加してしまいました。
コインを入れたり、隣人同士でハグし合うという恐ろしい関門もあって、冷や汗でぐっしょりでした。
参列者全員による大合唱には口パクで参加しました。
両の手を、組み合わせるというよりも、きつくきつく噛み合わせて、「天にまします我らの父よ」と念じました。

外に出るとすっかり暗くなっており、どっと疲労を感じました。

数年前発行された、ガイドブックの情報を頼りにナイトショーを観に行くと「今日はやってないわ」と首を横に振られてがっかりです。


どこかで嶋津さんをよろこばせられるようなエンターテイメントはないかな。




あてどなく広場を歩いていると、観光地でよく目にする、似顔絵描きの姿がそこかしこにありました。
どの絵描きさんも稼動しておらず、暇そうに背を丸めています。

いっしょに写真を撮ってもらえますか?
二人組の彼らに声をかけたら快く応じてくださって、口元を押さえて笑いをこらえるという理想的なリアクションに萌えました。
 
一旦その場を離れて、武内さんとふたりでひそひそ相談。
 
「大丈夫だよ。感触いいよ。やってくれるよ。」

……お願いします!

ちがう、わたしじゃない、うしろうしろ!
こっちの顔を描いてほしいんです。SHIMADZU!!
必死のジェスチャーと片言の英語が通じて、後頭部の、嶋津さんの絵を描いてもらえることになりました!



シャッターをバチバチ押しまくる武内さんが、「お兄ちゃんきれいな顔してるなあ、イケメンなんだよなあ!」と吐息を漏らしていて、なんなの感じてんの?
腹立たしく思いました。

わたしはイケメンの顔を拝めず退屈です。


今何割ぐらいできてるの?
武内さんに聞くと「ぜんぜん。まだ当たりをつけたぐらい。」という返事が返ってきました。クソッ。

暇を持て余したわたしは、後頭部を描かれながら、目の前の三つ編みの絵描きの姿をスケッチし始めました。
 
 


見たことのない珍景に、子どもらが覗き込んでわいわい囃し立てています。

しかしイケメンは筆が遅いのでありました。
「いいね〜目がきれいよ〜、縮れ毛もセクシーよ〜」と、篠山紀信ばりにシャッターを連打していた武内さんも、「後頭部なのに超真剣に描いてる…」というつぶやきを残したきり、気配を消しています。

わたしはできちゃったよ。
時間があるせいで線を重ねすぎました。
もうこれ以上描けない。

と、わたしにデッサンされていた三つ編みが、こちらを振り向き、目を輝かせて画板を構えるではありませんか!

まさかのお絵描き合戦が勃発です。
武内さんの、「わははは、うまーい!」という絶叫が響きました。

三者がガリガリ鉛筆を走らせる、熱のこもったバトルに通行客も興味津々です。
そんな彼らに武内さんが、「ドス・カラス!」と、わたしのふたつの顔の存在を懸命に説明してくれていました。

「独創的!」
「ねじれてんの」
「写実じゃないんだ」
「前の顔と後ろの顔、どっちもあって」

三つ編みの描き進める絵を、武内さんが実況してくれました。

できた?
 
うわー!!!!!

すごい!
おもしろい!!
似てる(パーツが肉に埋もれているところとか)!!!
こういう妖怪、図鑑で見たことあるよ!!

うれしいなあうれしいなあ。
自分まで描いてもらえるなんて思わなかったなあ。

あとはイケメンの絵の出来上がりを、三つ編みと歓談しながらじっと待つのでしたが、武内さんがおなかすいたとか言って観客にごはんを食べさせてもらっていて、要領いいなと思いました。

イケメンの描く嶋津さんが、完成に近づきつつあるようです。
しかし武内さんによると、長らくこの状態から進んでいないらしく「どこ描いてるのかわかんない」そうでした。

できた!!

じゃじゃーん!
1時間半、かかったよ!!
武内の腕なら10分仕事よ!!
ミスターSHIMADZU、できあがり!!



似顔絵の似顔絵って、こんなふうに進化していくんですね。
嶋津さんをお題にした、絵による伝言ゲームが、日本から国境を越えて、メキシコで実現したのでした。

三つ編みもありがとう!

グラシアス!!
本当にありがとう!
 
三つ編みはランダ、イケメンはイサクという名前です。
向かい合って描きっこしていたときの三つ編みの顔のページを、ちぎってお渡ししました。

代金は初め、後頭部だからまけてくれと、80ペソで描いてもらう約束でしたが、100ペソお渡ししました。
少額で申し訳ないけど、イケメンと三つ編みとで、仲良く分けてくれるといいなと思いました。

「なんか今日は変なことあったな。」
彼らが腐った時、わたしたちがくじけた時、それぞれの退屈しのぎの思い出に、今日の出来事がなれたらいいと思いました。

似顔絵の興奮が冷めると、体が冷えていることに気づいて身震いが出ました。

じっと座って描かれていたせいです。

もうもうと立つ湯気に誘われ、あたたかい飲み物を買いました。

何かな?
甘いかな?

あっまーい!
うおいしいいい!!

甘い。
シナモン。
あとちょっとアルコール?
フルーツを甘く煮たやつでした。
なんかこういうのおしゃれな名称がちゃんとあったと思うのですが、忘れた。
サン…サングリラとか、コンポートとか、そういうのです。

おなかもすいたので、メキシコのお決まり、タコスの屋台に座りました。

ドス(2つ)、ポルファボール(ください)!

そうしている間にも、嶋津さんはひっきりなしに観光客に声をかけられます。
外は寒いですが、心はほかほかでした。

タコスもおいしかったです。
ラディッシュも食べ放題で、旅行中不足しがちな野菜を摂れてありがたかったです。

広場ではピエロの方による出し物もありましたが、人垣でよく見えなかったのと言葉がわからなかったので、少しだけ見て帰りました。

スペイン語をもっと知りたいな。
似顔絵コミュニケーションのときに、もっと話したいなと、もどかしさのあまりギリギリしたのでした。

でも絶対、帰っても勉強しねえな。
怠惰な自分を諦めながら、寝ました。
おやすみなさい。

嶋津さん、宝物の思い出を本当にありがとうございました!
ムーチャスグラシアス!