年末、地元の小さなマラソン大会に出たときのことです。
走り終えたあとで、知人の竹村さんを見つけて「わー! お久しぶりです!」と駆け寄ると、「おお、旅行連れてってーや」とおっしゃるので、合宿のお誘いかな? 行こう行こうと意気込んだら、後頭部ビジネスのことでした。
読者がいるとは!
ありがとうございますありがとうございます!
それから、「ちょっと行かなあかんから」と言って歩き出した竹村さんが向かった先はなんと表彰台で、しかも呼ばれたのは真ん中の場所だった!
年代別優勝!!
優勝ってそんなの、天気の話だとか後頭部ビジネスの話だとかの前に、すべき話じゃないですか。もっと喜びをあらわにしてほしいのに、平然とトップの座を受け入れていてむかつきました。
バリバリの眼光で真顔だった竹村さんが、主催者の方に「かたいなあ、笑顔で!」と言われて、しゃあなしでこしらえたつくり笑顔です。
つくり笑顔、苦労しました。
誰? って顔になりました。
でも、自信のない真実より言いきった嘘のほうが強いって学校で習ったし、誰がなんと言おうと竹村さんです!
これから、イエルベエルアグアという、石の滝で有名な絶景の地を目指して、ミトラ行きのバスに乗ります。

バスを待っている間に描いている風景。


最初は人目を忍んで描いていたわたしたちですが、旅を続ける間にずいぶんと剛胆になりました。
今朝出会った大学生のたろうさんもいっしょに、3人で行動しました。
石の滝に以前行ったことがある先輩は、他の絵付けの村を見に行くそうです。
ミトラに着くと、また乗り換え。
今度は幌付きのミニバスか、タクシーに乗るしか交通手段はありません。

カーブのたびにガタンゴトンと大きく揺れますが、景色に夢中だったせいか、不思議と車酔いはしませんでした。
グーテンモルゲン、グーテンターク、ダンケシェーン!
スシ、トーキョー、ムラカミハルキ!
知っているだけのドイツ語の挨拶を並べると、彼女らは村上春樹が大好きだと熱弁してくれました。
自分もお返ししなきゃ! ……ドイツの有名な作家!!
焦って考えたけれど誰ひとり思い浮かばずに、己の無知を嘆きました。
ゲーテとか、社会科で習った人すら出てきませんでした。


ここから20分歩きます。

ベロを出しながら走っているような三輪車。
歩きたくない人は、なんらかの交通手段はあるようです。
ロバが家畜でした。
のどかそのものの景色です。

室内はしっかりメキシコでした。
暑さで犬がバテています。
凶暴なほど強い日差しでした。

きっぱりとしたY字路を進むと、心なしか土が白くなってきました。
「すぐそこ」の「S」です。

「イエルベエルアグア」とは、「沸騰した水」という意味だそうです。
それならもう一言、「お湯」でいいじゃんと思いましたが、お水のぽこぽこ言う様子を指してのことらしいです。

冗談みたいなエメラルドグリーンでした。
ポシェットが水没して慌てました。

そこで、かわりばんこに皆の貴重品を管理して、それぞれ順番に水中遊びをすることにしました。
気持ちいいです!

武内さんも来ました!
プールの縁に腰掛けているのが我々です。
夏を先取りしてきました。

プールのその先は絶壁です。
峰々の織りなす、せわしい起伏が一望できました。
後頭部の竹村さんは、山を走るのも速い人です。
こんな景色を見ると、縦走したくてたまらなくなるんじゃないでしょうか。
大会とかじゃなくてよかったー!
走らなくていい、よかったー!
と、自分の現在の安穏を慈しむような気持ちになりました。

滝でした。
石の滝が今回のメインでした。

陽気な軍団の一員に扮しました。
人々の動きは何故だか止まっていて、精巧に出来たミニチュアとしか思えませんでした。
ほっとため息をつくと人々はまたちょこまか動き始め、自分が神さまになったような錯覚を受けました。
なぜ皆がちっともこわがらないでいられるのかわかりません。

こういう獣道は大丈夫です。
こわいのはガクッと地面が途切れている絶壁です。
ものすごい断崖がそこにありました。
なんということでしょう!!
どこかで聞いたようなナレーションが頭に浮かびました。

確かに、石の滝です。

細かな水しぶきが霧のように舞っています。

石のくぼみにも水が溜まって溢れていました。

どういうわけでこんな造形になったのか、地球の天然美に脱帽でした。

巨岩も滝も大好きな、わたしのためにつくられたんじゃないかと思うような最高の場所でした。


今回は、武内さんと、たろうさんの撮ってくれた写真もたくさんあります。

稀にわたしが撮ったものもありますが、後頭部の竹村さんの写真は100%、ふたりのうちのどちらかが撮ってくれました。
この写真は、たろうさん撮影。
武内さんはこの時トイレに行っていました。
わたしは野ションをしました。

帰り道、定員オーバーでぎゅうぎゅうの車内には、はにかんだような笑みが行き交います。
ぎゅうぎゅうのミニバスが故障したのか、なんらかのトラブルによってここで乗り換え。
一筋縄で行かないのがメキシコです。
主食のトルティーヤをモーレにつけて食べていたら、モーレが頬に飛んだので、そのままつい勢いでトルティーヤで顔を拭いてしまいました。
とっさに「まちがえた」と思いましたが、「まあいっか、お皿みたいな顔してっからな」と言い訳したら、自虐だったのに「それおもろいな」と受け入れられて、複雑な気持ちでした。
でもウケたから、今度竹村さんとごはん食べる時にもなんか顔に飛ばして「お皿みたいな顔」のギャグやろうと思いました。
よろしくお願いします。

素晴らしい一日でした。