武内さんのおしゃべりをもとに文字起こししています。
もう一度言うけど、この完走文はフィクションです。
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少し息が苦しくなって、ちょっとペース落ちてたのかな。
まだ時間あるし気にしてなかったんだけど、58kmで「あきちゃん」って呼ぶ静かな声がして、くるちゃんだった。
「はや! くるちゃんもう来たんだ!」と思ったよ。並んだと思ったらもう先に行かれてて、「足痛い?」って聞かれたっけな?「大丈夫」って答えたんだけど。
大会直前、ときどき、ふとした瞬間に足首が痛むようになって。
246kmも走ったらどうせどっかは痛くなるんだから、って気にしないようにしてたんだけど、やっぱイヤじゃん。
……痛くなってよかったとも思ったけどね。「ハイここで練習やめ!」っていう、やめどきがわかりやすかったから。足首が痛くならなければ、他のどこかが痛くなるまで練習してたと思う。
で、大会中はなんと足首、痛くならなかったの!
調整成功〜! と思いながら走ったよ。
あと、「よく食べる」「おなかをすかせない」の目標通り、全エイドで飲み食いした。
おなかがへったら体力もやる気も完全停止しちゃうから。
だからよかったんだけど、エイド、ちょっと多すぎるとも思った。もっと少なくていい。あったら誘惑に負けて寄っちゃうから……。〈とばせよ〉
とかやってたら坂東さんが来て、楽しくなって。緑茶、「飲む?」って。いただきました。緑茶っておいしいね。
くるちゃんさっさと行っちゃったし、ひとりでとぼとぼやってたんだけど、工業地帯に入って景色も変わって、それもよくてね。
私ひとりで走るの好きじゃないからさ、ひとりだとさぼっちゃうし。
坂東さんといっしょに行こうとしたら、「先行って」って言われて、「いやこれが私の、自分のペースだから」って負けじと反論。しばらくいっしょに走ったんだ。
坂道のとこで、「この角度で(傾斜と並行に)見たら坂に見えませんよ〜」ってアドバイスしたりとか……。全然通じてなかったし、私もあんまり覚えてないんだけど。
なんか私すっごいテンション上がって気が狂った感じでゲラゲラ笑いながら走ってたら、「あきちゃんはふざけてるかもしれないけどこっちは真剣なんだ。大切な大会なんだ」みたいなこと言い出して、ああん? と思って。「アアシだって本気だよ! 絶対完走するから!」って。
「坂東さんも今年こそやっと完走できますね」「しない」「はっ?」「次のエイド、ひとつ先までのことしか考えない」「でも完走するんですよね?」「しない」
「これでリタイアしたらあきちゃんのせいにするからね」「いいですよ私のせいで」「しないよ」
この人は「しない」以外の決断ができないのかとか思いながらもなかよくやってたのに、なんかのタイミングで突然キレて「ほんとに先行って!!」って怒られて、そんでほんとに、シュッて先行った。
実際自分ふざけすぎだったなと思って、我に返って。