後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2017年10月22日日曜日

81km〜120km《若木》

コリントスの手前から便意があったのですが、大エイドまで我慢しようと、ペースを落として堪えていました。
どうすれば時間のロスをなくせるか頭の中で徹底的にシミュレーション。
コリントスの計測マットを踏んだらすぐに、適当な軽食を持ってトイレに入り、「上の口で食べてる最中に下の口で用を足す」作戦。

無事コリントスまで便意が持ちこたえたので、マットを踏んで直進、脇目も振らずにビスケットを手にして右方向へ14歩。1秒のロスもなく、思い描いていた通りに、トイレタイムを迎えることができました。

スタートしてから、固形物は口にせず来ました。わたしはレース中に物を食べるのが得意なほうではありません。
ここでもまだ空腹はなかったのですが、そろそろエネルギーでも入れとくか、と。
計算通りの補給のタイミングでした。

なのにうまく食べられないんです。こんなに計算通りなのに、ビスケットがなかなか飲み下せない。うんち出す時間内で食べきらなきゃ、計算通りにがんばらなきゃと思って、焦っていっぱい咀嚼するんですけど、うんちが出終わってもまだ飲み込めない。
仕方なくちょっと丁寧にお尻を拭いたりして時間を稼ぎ、なんとか、パンツとタイツを上げ終わるタイミングでやっと嚥下ができました。やってることがおかしかった。「計算通り」へのこだわりが異常でした。自閉症なんじゃないのと思った。

普段は大好きなビスケットなのに、食べられない。
自分の体感よりも実はけっこう弱っているのかと思うと不安でした。今、無理して固形物を入れたら吐きそうだ。ここはもうジュースのカロリーに頼るしかないと思って、オレンジジュースを4杯、飲んだんです。あと蜂蜜とヨーグルト。りんごも大丈夫、飲み込めました。
なんだ、大丈夫なものたくさんあるじゃんと思って、少し元気が出て、りんごを齧りながらコリントスを出発しました。

そしたら走れなくなっていた。まあジュース4杯飲んだしね、とは思いました。そりゃあ体も重いでしょう、と。すぐに落ち着くと信じて、ゆっくりゆっくり走り出すのですが、ビスケットの気持ち悪さがずっとなくならない。後続のランナーにもどんどん抜かれて、そうすると気持ちも沈みます。何より腹痛が収まらなくて、でももううんちに時間とられたくないんですよ! さっきのトイレで出し切っとけよバーカって思うから。けれどももう、どうしても無理、でそうと思って歩き出した瞬間に、後ろから「大丈夫?」って三原さんが声かけてくれて、神の使いかと思いました。「大丈夫じゃない。うんち。紙。」って、日本人同士なのにカタコトで困窮を伝えると、神の使いのくせに紙持ってなくて、「チッ、使えねえな」が喉元まで出かかった。でも三原さんと並走されていた日本の方が、やりとりを見て無言でおしぼりをくださったのでやっぱりふたり合わせて暫定、神でした。

草むらで出したら思いっきり下痢で、ああもう本当に一刻の猶予もならなかったんだな、と危機的状態にあったことを再確認。
ジュース4杯は失敗だったと省みました。
いただいたおしぼりは本当に神懸かり的な素晴らしさで、感謝が尽きません。

救われて大自然の中、訪れたひとときの安息を、暮れなずむ空が穏やかに包んでいました。


《最後の一行だけ力ずくでいい感じに》