後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2017年10月21日土曜日

81km〜120km《武内》

若木です。
武内の語りべです。
この完走文はフィクションです。

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私コリントスにある河内さんのそうめんとおにぎり、ほんとに楽しみにしてたからね。
ほんとに楽しみってどれくらいかというと、もう、日本にいた時からおにぎりのこと考えてたのよ。プールやってる時とか、「あ〜河内さんのおにぎり食べたいな〜、いま。」って。私たちこれまでも河内さんにすっごいお世話になってるじゃん。さらに今回もまた河内さんに餌付けされるわけでしょ? 今度こそいよいよ、なんか恩着せられそうだし〈注:河内さんはそんなことしません〉、ほんとはエイド、華麗にスルーしたいんだけどね〜! そうめんもおにぎりもめっちゃおいしかった。
なんかマラソンやるようになってから食べるのがほんとに好きになっちゃって、食への執着って前はこんなになかったんだけどね。とにかく胃腸が強いということはよくわかったね。



コリントスを過ぎたら夕暮れの田舎道で、右も左も風景めちゃくちゃいい!
今まで、バスで通ったことのないルート。初めての道が新鮮でね。
目の前に古めかしい建物がどーんって出てきたから、「すごい景色です!」とかひとりごと言いながらビデオ回してたら、観光客が「コリントス遺跡だよ」って教えてくれて、そっかあ! これコリントスなんだ! って。
知らなかった。コリントスってエイドの名前だと思ってたら、ほんとに現実に在るんだね。

誘導に沿って石畳のカーブをぐねって曲がったら急に人がうわーっていて、すっごい拍手! 
カフェとか人とか、ギュッて密集してて、雰囲気最高。映画みたい。もう全部、自分のためのセットに感じる。サプラーイズ!! と思って、テンションマックスで、「みなさーん! わたしだよー!」みたいな。右手のこぶしを高く突き上げて、「出発しまあーす!」みたいな。すんごい楽しいじゃん何これー! って。テンションうなぎのぼり。既に上がってるとこからのさらなる爆上がりね。

ハイなまま振り返ったら遠くに山田さんが見えて、ピンクのTシャツが目立つからすぐわかった。あれ? あの人ちゃんとしたランナーじゃなかった? どこで抜かしたんだろ? って思って、しばらく真面目に走ってたんだけど我慢できなくなってね。
大声で、「山田さあ〜ん! いいですね〜! 楽しいですね〜!!」って叫んだの。

しばらくして山田さんが追いついてきたんだけど、私がもう止まらないんだ。すさまじいマシンガントークをかまし続けて、そこからかれこれ50km。並走。
説明しがたい。
とにかく信じられないハイテンション。

でもしゃべりまくる私に、えらいもんで山田さんが対応してきてね。たまに「ごめんなさいこんなに話して」とか申し訳程度に一応謝ってみるんだけど、「全然大丈夫ですよ。自分関西人なんで、人の話聞いたりとか、おもろいことも大好きなんで」みたいな。

「私って普段全然話さないんですけど〜、あっよくご存知ですよね?」
「いや知らないよ、はじめてだよ」
「いやご存知です!!」
「ああそういえばそうかなあ。全然話さないから嫌われてるのかと思ってたよ〜」
「そっっんなことあるわけないじゃないですかあ〜!!!!! ギャッハッハ〜!!!」

とにかく私が息できなくなるぐらい爆笑すんの。しかも自分の言った話に大爆笑。
「私こわいですよね〜! もう紙一重ですよね〜! ホラーですよね〜! ゲラゲラゲラゲラ」が、ずーっと続く。よくそんなので走れるねって感じ。

「ヒーッヒッヒッヒッヒーッヒッヒヒーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ、ゲェ」って、なんかゲップも出てくるようになっちゃって、まあこれはいつものことだから私は慣れっこなんだけど、それが軽いゲップじゃなくて、「ガーッ」とか「ゴーッ」っていう重たい空気砲だから、初めての人はびっくりするじゃん。気まずいじゃん。だから、私がゲップするたびに「ナイスゲップ!」って合いの手いれてもらってたんだ。
山田さん、ちょっと離れてるところからでも、私が「出しますよゲップー! ガーッ!」ってやったら「ナイスゲーップ!」くれるから、ゲップも出しがいがあってね。もっとかけ声のバリエーション増やしてってお願いしたら、「え〜、考えなきゃいけないんですか? 頭使うなあ〜」みたいな。それで、簡単な手拍子を追加することにして。

私、エイドではどうしても食べ物に直行しちゃうから、距離表示の看板見るの、毎度忘れちゃうんだよね。ていうか、数字見ても全然頭に入ってこないの。
だから、山田さんが看板担当、わたしがゲップ担当って係決めをして、そのあとずっとエイド毎に「いま何キロで貯金は何分で」って山田さんがアナウンスしてくれたの。

それから、「時間あるし、おしゃべり何回繰り返してもいいですよね?」って強引に許可とって、おんなじ話を納得いくまで重ねてたんだけど、ついには歌とか歌い出しちゃってね。
ほら、去年くるみちゃんのためにつくったオリジナルソング。その名も『へ〜そう』。

「♪チャンチャチャンチャンチャチャ」
「えっ伴奏から?」

山田さんもさすが、正しいつっこみ。

「♪チャンチャチャンチャンチャチャ」
「ギターなん?」

「や、ウクレレです」。もうこっちは早く肝心の歌に入りたいから、つっこみ押し切って本編歌い出して。

「最高峰〜のレース♪ スパルタ〜スロン♪
 246km〜いっしょに〜走りま〜しょ♪」 〈以下略〉

5回ぐらい繰り返したら山田さんもだんだん覚えてって、いっしょに口ずさんだりしたんだけど、途中で「もういいわ!」って。疲れてたんだろうね、オーソドックスなつっこみをいただきましたよ。そこで私も、「じゃあ早送りで歌います!」って、3倍速でお届けして。だめ押しに、「ハイ! では今年のバージョンもいきますね、『へ〜そう2017』!!」って、熱狂のリサイタル再演。

山田さんはほっぺた叩くような感じで、「これってスパルタスロンですか? これがぼくのスパルタスロン2017ですか……?」みたいな、なんの悪夢かみたいな顔。

「星が出てたらキラキラ星うたおうと思って英語バージョン練習してきたんですけど、曇ってるなあ」って残念がったら、「曇っててよかった神様ありがとう!!」とか言って曇天を切なく見上げてて、これ以上歌ったら山田さんが星になりそうだった。

ちょうど通りかかった日本のサポートカーに向かって山田さんが大声で、「河内さんこの人すごいね〜! 助けて〜!!」みたいな。「あきちゃん初体験!(悪い意味で)」みたいな。憔悴されていました。