靴擦れなどもまったくないそうで、メディカルチェックでも走る前と変わらないきれいな足のままでした。
去年あきちゃんの出場が決まったときからずっと、「あきちゃんより先にゴールして洗濯物とか洗ってあげるんだ」と息巻いていたわたしですが、こんな調子なら別に自分必要ないなと思いました。自分のほうが弱っているくらいでした。
ところが元気よくホテルに着いてシャワーを浴びた直後、急に、「気持ちわるくなった」とあきちゃんが倒れ、ベッドでおだぶつになりました。
突然の変調だったので、もしや洗濯が面倒くさくて仮病を使ったんじゃと疑いました。ありうる。
それでも、過去3年間、わたしがあきちゃんから受けてきた献身的な介護に報いるよい機会なので、よろこんで洗濯してあげました。
「してあげました。」恩着せがましくてすみません。
それから事情聴取タイムになり、みずきのパートが来ました。
「すっっっごいこわい顔で抜いたんだ……。」
状況をこと細かに説明すると、おもしろがったあきちゃんが「ちょっとその顔再現してみてよ」とあおってきて、「もうできない。」「いいからやりなよ!」「できないってば!」「いいから!」
「それがあ〜!? ププッ。どこがこわいの」速攻鼻で笑われて心外でした。
だからもうできないって言ったじゃん……!! 実際はこれの100倍凶暴な顔してたんだよ! みずきだって「こわい」って言ってくれたもん!!
翌朝の朝食会場でみずきさんにお目見えしてしまったときは、いたたまれずに足がすくみました。
ひえええええ、あ、あ、あの、ほほほほんとにすみませんでした……。
「昨日いやな感じで抜いてごめんなさい……。」こわごわ頭を下げると、みずきさんはいつものにこやかな顔で「くるみちゃんすっごいこわいんだもん〜! 鬼の形相で追いかけてくるからさ〜!」と明るく笑い飛ばしてくれて、なんかもう人間の器がちがうなと思いました。恩情痛み入りました。
心底安堵して、「よかった笑い話にしてくれた……。」涙目を隠してうつむいていると、「私、後ろに付かれるの苦手だからさ〜。先に行かせた〜!」とか言われて、「おい聞こえてんぞ」と思った。聞こえてんぞっつうか、え、あの、いまあなたのとなりにいるのわたしなんですけど、もしかして、見えてない……?
「先行かせた」じゃねーだろと思った。仮に「先行かせた」と思ってたとしても言うなよと思った。聞こえるように言うなよ。そもそもがみずきに実力で勝ったなんて思ってないところに、傷口に塩塗るようなこと言うなよ。
なんか……わかんないみずきさんって天然なんですか……?
人格的に立派すぎると一般人の気持ちとかまじでわかんないのかもなと思った。すべてを超越されていて、いっそ性格悪い気すらしました。
……だけど、今になって考えてみるとやっぱりみずきさんの性格が悪いわけないので、何もかもこちらの案件になります。自分の性格が歪んでいるせいで、他人の何気ない発言にまで毒気を読み取ってしまうんだと思う。勝手に傷ついてみずきさんまで悪者にするなんて、やり口が汚い。結局、自分の性格の悪さがそっくりそのまま自分に返ってきているだけでした。
なんか……わかんないみずきさんって天然なんですか……?
人格的に立派すぎると一般人の気持ちとかまじでわかんないのかもなと思った。すべてを超越されていて、いっそ性格悪い気すらしました。
……だけど、今になって考えてみるとやっぱりみずきさんの性格が悪いわけないので、何もかもこちらの案件になります。自分の性格が歪んでいるせいで、他人の何気ない発言にまで毒気を読み取ってしまうんだと思う。勝手に傷ついてみずきさんまで悪者にするなんて、やり口が汚い。結局、自分の性格の悪さがそっくりそのまま自分に返ってきているだけでした。
よく、「きみの人生の主人公はきみだ」みたいなこと言われるじゃないですか。Jポップとか、映画とか本とか、なんでも。
でも、わたしの人生なのに、自分の人生の主人公はみずきさんのような気がしてならないんです。みずきがわたしの人生の真ん中でキラキラさんざめくお姿を、観客のわたしは黙って隅っこの埃溜めで、膝を抱えて見つめている。
このまま人としての品格を高めない限り、わたしは一生、自分の人生の脇役に甘んじ続けるのだろうと、このときはっきり自覚しました。
もう……どうしたらいいの、出家……?