朝にすべてを託していました。
でも、覚めるどころか眠気はさらに増したのでした。
気力体力がもはやなかった。
脚も終わったんだと思った。
レース前に掲げていた今年の目標は、「ラスト50kmをまともに走りきること」。
この3年間、毎年毎年、残り50kmで決まって大失速してきたからです。今年こそはと思っていました。
ほんとはもう一個目標があってそれは、夢の30時間切りだったのですが、これはもう、このペースではとてもとても。
諦めざるを得ませんでした。
諦めざるを得ませんでした。
下り坂をよれよれながらもなんとか走り、上り坂に入ったところで完全に足が止まりました。今年も来ました。残り50kmのお約束。見事な足の止まり方。
足が止まるっていうか、正確に言うと足は動かしているのですが、わたしは極度の内股で、
この足癖が炸裂し、
だれかに助けてほしくって、後ろを振り返っては「眠い」を訴えるのですが、背中ポンとか声かけとか、ほんのワンタッチの励ましだけで皆、行ってしまう。この位置にいるのはまあまあ速いランナーだからか、親身に他人の眠さにかまけていられるようなファンランの人はいないんです。
わたしは内股を駆使しておんなじところで延々こんがらがっていて、「おいおい」と思う。「ギャグを作りにここまで来たわけじゃないんだ」と思う。走っているのに進んでないって、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
これはもう本当に無理なやつだと思いました。何しろ進まない。どれほどの時間を無駄にしているかわからない。そうだ2分、2分だけ、仮眠をしようと決めました。
以前はところかまわず大会中、よくやっていた通称「ごろん」。最近はごろんしなくても走れるようになっていました。特にスパルタスロンでは、昨年も一昨年も、ごろんどころか座ることもせず、立位を保ったままゴール出来ていたんです。
敗北感にまみれた「ごろん」。
これにて、ついに眠気に屈す。
これにて、ついに眠気に屈す。
エイドに体を横たえましたが、2分経たずしてぐったり目覚め、なおも重たい体に取れない眠気。ごろん前からなんにも改善されない走りで、ただただ時間が空費されていきます。
よろよろのわたしを抜きざま、外国人の女の子が「5分寝たほうがいい絶対それがいい。」と、手のひらいっぱいに「5」の数字を差し示してくれました。
「ほんと? 寝たほうがいい? 5分寝ていい? さっきも2分寝たんだけど、でもまだ寝ていい? ほんとに寝ていい?」弱々しい問いかけに女の子は、「絶対。5分。寝る。」と確信に満ちた表情でうなずき返し、坂道を駆け上がっていきました。その力強い足取りが視界の中でゆらゆらと崩れて、わたしは本当にもう、1分間だって起きていることができないのでした。
「ほんと? 寝たほうがいい? 5分寝ていい? さっきも2分寝たんだけど、でもまだ寝ていい? ほんとに寝ていい?」弱々しい問いかけに女の子は、「絶対。5分。寝る。」と確信に満ちた表情でうなずき返し、坂道を駆け上がっていきました。その力強い足取りが視界の中でゆらゆらと崩れて、わたしは本当にもう、1分間だって起きていることができないのでした。
寝ながらエイドに辿り着いて、寝ながらおじさんに「眠い」宣言。
「5分寝たい。5分。起こしてね絶対ね、プリーズプリーズ約束だよプロミス。5分ね。5分だよ。」
半目でお願いしました。
だけど、そうでした、この時わたしはとても寒かったのでした。長いこと眠気で走れずにいたので体が冷えきって、唇がわなわなしているのが自分でもわかりました。細かく震えていたら車の中に誘導されて、着ていたジャンバーをかぶせてくれ、あったかあ〜…と思った時には落ちていました。
就眠。
「5分寝たい。5分。起こしてね絶対ね、プリーズプリーズ約束だよプロミス。5分ね。5分だよ。」
半目でお願いしました。
だけど、そうでした、この時わたしはとても寒かったのでした。長いこと眠気で走れずにいたので体が冷えきって、唇がわなわなしているのが自分でもわかりました。細かく震えていたら車の中に誘導されて、着ていたジャンバーをかぶせてくれ、あったかあ〜…と思った時には落ちていました。
就眠。
……「アーユーOK?」助手席の窓が遠慮がちにノックされ、全然OKじゃないですと思いながらわずかにまぶたを持ち上げました。フロントガラスの向こう、褪せた景色の中に、赤と青のあでやかなカラーリングが人のかたちにぼんやりと像を結びました。
その時やっと、目が目の働きをした。焦点が合った。はっきり見えた。
わたしの目に飛び込んできたのは、エイドで給水している、みずきさんの姿でした。
みずき…………………!
5分前よりも一層青ざめたわたしに、おじさんが「アーユーOK? もっと休め」と勧めてくださるのでしたが、「や、ちょっとそれどころじゃなくなったから。」って、転げるように車を下りて、「サンキュー。眠気なら覚めました。」低い声でつぶやきました。
わたしの突然のキャラ変におじさんがついてこられていなかった。状況を把握できずに困惑していて気の毒だった。けれども説明は不可能だった。ただならぬ事態だ。とにかくそれどころじゃなくなったのだ。
車から出てきたわたしを見て驚いたみずきさんは「大丈夫? どうしたの?」ってやさしい声で心配してくれたけど、でも同時に、「抜いた。」って顔もしてた。
5分前よりも一層青ざめたわたしに、おじさんが「アーユーOK? もっと休め」と勧めてくださるのでしたが、「や、ちょっとそれどころじゃなくなったから。」って、転げるように車を下りて、「サンキュー。眠気なら覚めました。」低い声でつぶやきました。
わたしの突然のキャラ変におじさんがついてこられていなかった。状況を把握できずに困惑していて気の毒だった。けれども説明は不可能だった。ただならぬ事態だ。とにかくそれどころじゃなくなったのだ。
車から出てきたわたしを見て驚いたみずきさんは「大丈夫? どうしたの?」ってやさしい声で心配してくれたけど、でも同時に、「抜いた。」って顔もしてた。
目が覚める覚めないじゃなかった。目なら覚めすぎて白目だった。さらには顔面蒼白だった。白目とセットで顔面蒼白、その一瞬だけ白人になった自分がいた。みずきに抜かれた。
みずきに抜かれた……!