後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2017年11月8日水曜日

240km〜ゴール《武内》

若木です。
武内さんのラストです。
以上「この完走文はフィクションです」でした~!
だいたいノンフィクションだったよ!!


______________________________


あと6km
去年くるちゃんを迎えに行った地点はよく覚えていたから、ここまで来たらもう本当にゴールだなと思った。



後ろから軽快な足音が聞こえたと思ったら、黒田さんだった。抜かして行った後ろ姿を見て、こんなによろこんでいるふくらはぎ、見たことないって思った。
鈴木さんに「あのふくらはぎ、すごいよろこんでますね!」「なんか、ゴールする人の後ろ姿っていいもんですね〜。幸せな気持ちになりました。」って言ったら、「何ひとごとみたいに言ってるんですか、私たちもこれからゴールするんですよ。」って言い返された。
そっか。ゴールするんだよね。実感が湧かなかった。

朝方、ゴールを確信して感動してたの。レース中ずっと、なにかと感動してきた。その反動か、いざ現実のゴールとなると冷静でね。あの時あの場面、繰り広げられたあの劇場はなんだったんだろうってすごく不思議に感じた。泣くんだろうなと思ってたけど涙も出ない。

スパルタの街並みを噛み締めようとしてたんだけど、何度か噛み締めたらもう、噛み方がわからなくなっちゃった。
「ビデオの調子悪いなあ」とか思って、「なんだよ全然電池持たないじゃん」って。あれ? スイッチどこだろう? ってビデオを手に弄んでたら、ますます醒めてきちゃってね。
ただただゴールさえできればいいって感じ。何もなくていい。

あと2kmのエイドには川村さんが迎えにきてくれていて、…‥「ああ川村さん、だめだったか」と思った。リタイアだったか、って。なんて声をかけようか、考えるより先に抱き合ってた。川村さんは、「よくやった!」って大声でゴールを祝福してくれてね。私は寂しかったよ。「そうだその調子だ! マックについて行けば大丈夫だ!」の、明るい声援を背にゴールへと走った。

それからね、事前に最後のエイドに預けておいた国旗がなくてうろたえた……。くるちゃんがみんなにまわしてくれた、寄せ書きの旗
でもきっと、既にだれかが回収してくれていて、ヴィクトリーロードで渡してくれるのね! ってガッテンして、そのまま最後の直線へ。


一番の盛り上がりどころなのに静かな心。平穏な時間。
「あーここいつもの場所だ。
 3年間くるみちゃんを待っていた場所。
 どうやら今日は、私も走っているらしい。」

旗を渡してくれる人をキョロキョロ探したけど、そんな人いなかった。くるみちゃんが持ってるのかなあなんてぼんやり考えていたら、「アキコー!」って声がした。身内の声。遠くでくるちゃんが手を振っているのが見えた。
やっと涙がポロリと出た。
やっと感動。安心した。

でも、くるちゃんにだんだん近づいて、はっきり見えてくるにしたがって、「うわ~それか!」と思って、感動がサッと引いた。「ヴィクトリーロードのど真ん中で、そのファッションはひどいでしょー」って。怪しすぎる服装で景観を乱してた。曇天にカーキ色はないでしょう?
でもね、厚着してるくるちゃんを見てそれはそれでいつも通りで安心したの(レース後は体が冷えるので着込んでいつもダルマになる)。
ちゃんと死力を尽くしてゴールしたんだなって、シルエットから伝わってきた。


「すごいねゴールだね~! おめでとう~!!」
かたく抱き合ってから「くるちゃんどうだった!?」って聞いたら、なんかやたらと低い声で「話があるんだ」と。「えっなに今言ってよ」って言っても、「や、あとで話すから」って。ますますこわい声で「だいじょうぶ完走はしたから」って。なんだろう、くるちゃんのメンタルケア大変だなあと思って不安が募った。

それからハッとして「旗は!?」って聞いたら、「知らないよ。ないの!?」って。くるちゃんが持ってるものとばかり思っていたから、「どうしよう紛失しちゃったのか!」ありゃあ~ってね。みんなからの寄せ書きだから、プライスレスなのにー。
でも、ないものは仕方ないからね。また出てくるかもしれないし、ほんとはゴールでかかげたかったけど、ユニフォーム見せられるからまあいっかって気持ち切り替えて。
なんだか、ゴールする前にふつうの世間話しちゃった。


「いっしょにゴールしようよ~」ってくるちゃんに言ったんだけど、「いいよいいよ足いたいよお」って、恥ずかしがって遠慮しててさ。私も、くるちゃんのその格好じゃ絵にならないよぉと思いながらも、腕をつかんで引きずるようにして走った。


ふたりで手をつないでヴィクトリーロードを走り終えて、さいごに3段、階段を上がろう、…としたところでビデオを構える山田さん発見! 思わず駆け寄る。
「バーテンダーになった話、聞きたかったよ~!!」

(山田さん目線)

123、階段を上がって、いよいよレオニダス像の左足にタッチ……なんだけど、なんかレオニダスの前、ランナーたちで混み合っていて、すんなりゴールできずにもたついた。
気後れして遠巻きに見てたら係の人が背中を押してくれて、それでやっと私の番。


タッチ!

まわりの声に後押しされて、



キス。


ゴールした。



ゴールしたんだって。



ゴールか。




でもね、
私のゴールはね、レオニダス像じゃなくて、くるみちゃんにタッチしたところだったんだ。