後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年1月10日日曜日

悪天候

レースは24時間を超え、あくる日になりました。
眠たかったのももう大丈夫です。
なんだ、けっこうたいしたことなかったな。
初めて睡魔に打ち勝ちました。

去年リタイアしたポイントを過ぎて、初めての景色、初めての坂道、初めてのエイド。
「初めて」が絶え間なく押し寄せてきます。

朝は来るには来ましたが、天候は回復の兆しを見せません。
路面状態は酷く、足裏が痛みます。水浸しのシューズの中でふやけてマメが出来たのでしょう。
エイドに上着は預けておらず、足を止めると低体温で動けなくなるのは明白でした。

それでも、わたしの完走への手応えは、確信へと変わっていました。
ギリシャ特有の乾いた気候が心配で、暑さ対策にはずいぶん悩まされましたが、夜が明けても照りつける日差しはなく、気温は低く、眠気もかわした今、完走を邪魔する障害はどこにも思い当たりません。

悪天候なら得意です。
北海道出身のわたしは、積雪で自転車の使えない冬期、極寒の猛吹雪の中を歩いて通学していました。親からもらった定期代を洋服とプリクラにつぎ込んじゃったから……。
厳しい環境で育った。(身から出た錆)
北国の冬を思えば、これぐらいの雨も寒さもへっちゃらです。絶対行ける。ゴールできる。

しかし深まる自信に反し、脚は思うようには動いてくれませんでした。
いっとき治まっていた左脚付け根の痛みがぶり返し、ペースは落ちる一方です。

エイドに辿り着くたびに、ボードの関門閉鎖時間とにらめっこ。
腕時計とボードとを見比べて、……数字が頭に入ってきません。すぐには計算できない。それでもエイドを重ねるごとに、貯金が、2分、3分、7分、着実に減りゆく無情を冷たく突き付けられるのでした。

むかし好きだった本にあったっけ。
のろのろ、ゆっくり歩けば歩くほど、はやく進むトンネル。
モモとカメと、灰色の時間泥棒のお話。

でもここは現実で、のろのろはのろのろ。走らないと間に合わないんです。