後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年1月20日水曜日

要介護

「くるちゃん。起きられそう?」

3人がかりで体を持ち上げてもらい、数百メートル先のホテルまでタクシーで向かいました。
タクシーは完走した全ランナーに大会側が無料で用意してくださっているサービスです。

ホテルでは、わたしと武内さんの他に、小池さんという女性ランナーの方も同室でした。
ふたり組の中にひとりって絶対気を遣うじゃないですか。
おまけに小池さんは途中でリタイアされたというし(去年は完走)、複雑な感情がないわけなかったと思うんです。
でも、疲れ果てて粗大ゴミと化したわたしを、小柄な小池さんと武内さんがなんとか引っぱって、力を合わせて手厚い介護をしてくださいました。
小池さんだってほとんど寝ていないでしょうに。

昨晩から一緒に過ごしたという武内さんがもう早速「ともちゃん、ともちゃん」となついているので、わたしもどさくさに紛れて「ともちゃん」とお呼びさせていただきました。

ともちゃんにわたしは頼りっぱなしでした。
完走できたので公約通り後頭部に顔を描くつもりでしたが、そのためにはまず髪を刈らねばなりません。現地に来てから急遽決めた案だったため、ハサミもカミソリも用意しておらず、だけどともちゃんがどちらも貸してくださいました。
その他、医薬品や日用品も、ともちゃんのトランクからはなんでも出てきて、ドラえもんのポケットかと思うほど。
「自己責任で走る」を徹底する、ウルトラランナーとしての矜持を学ばせていただきました。

わたしはお尻が猛烈に痛くて、「それはちゃんとお尻の筋肉を使った良い走りができてたんだよ」と慰められましたが、普段からそれができていたらこんなザマにはなっていない…。
脚が動かないから、お尻を使うしかなかったんです。

ゴールして糸が切れたのでしょう、トイレでついに嘔吐しました。
ここまで、よく持ちこたえてくれました。

体調が悪すぎて後頭部を剃るどころではありません。
断髪式は翌日以降に延期して、まずお風呂です。

「お風呂やだ。しんどい。このまま寝る。」
濡れたままのウェアで汗冷えを起こしているにも関わらずグズるわたしを、「くさいから入るよ!」と武内さんが容赦無く浴室に引きずり込みました。這いつくばったままのわたしに、シャワーがぶっかけられます。

痛い、冷たい、熱い、痛い

ゴシゴシ洗われている間は痛みに耐えながら、「俺はやった。やったんだ。」と、自分の成し遂げた偉業を噛み締めていました。男気とはほど遠い、あられもない格好で……。

それから、武内さんが、ともちゃんに聞かれぬよう、シャワーの音に紛れて「ともちゃんとすっごい気が合う。ともちゃん大好きになった。でも、ってことはやっぱりともちゃんって変わってるんだろうね」と真面目に告白してきて、好意の基準がおかしいと思いました。
わたしもともちゃん大好きですが、わたしは別に普通に、普通の人しか好きじゃないです。
ともちゃんが万能なんでしょうね。
本当にありがとうございました。

ともちゃんのマッサージをする武内さん。
露光とも相まって、フィリピン系のいかがわしいお店のようでした。