後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年1月26日火曜日

断髪式、ごめんなさい。

脱肛の処置をうやむやにして午後、階下へ行くと、ロビーのソファにみずきさんがおひとりでいらっしゃいました。
みずきさん、みんなと街に出かけていると思っていました。
足指が傷ついていて、体調もあまりよくないご様子です。
それでも、そんな状態でも「もし今から走れって言われたらそりゃ走るけどさあ」とため息まじりに微笑むあたり、さすがウルトラ界のアイドルだと思いました。

多くは観光に出払っているようでレストランに賑わいはなく、ランナーの姿はまばらです。みずきさんと同じテーブルに座れて、緊張。
個別に行動していた者がなんとなく集まって、様々な国籍の方たち、6、7名で食事をしました。
完走率はそのテーブルでも、やはり半々くらいだったように思います。

みずきさんは今年スパルタスロン初参加でした。
途中数回、前後して走ったりもしましたが、残り70kmで抜かれたあとはそのまま引き離され、1時間先にゴールされました。

完走後、「くるみちゃん知ってる? 日本人女子2位だよ」と武内さんに言われ、そっか。みずきさんがいなければ1位だったのか。そう思ってしまったことをわたしは、わたしは。
いかにも自分が思いそうなことだな。空疎な気持ちで受け止めました。
皆から「日本人トップおめでとう」と祝福され、「楽しんで走ったけど1位のオマケつきでした」と華やかに笑うみずきさんに、「オマケだと?  そのオマケわたしにくれよ」って思ったことも。

何年も前からみずきさんに憧れていて、みずきさんの書き込みまだかなまだかなって毎日こっそり覗いていることも、みずきさんの完走記はすべて音読して武内明子に聴かせていることも、すごく尊敬していることも、ご本人に言えましたが、本当は、その根っこにあるのは、嫉妬なんですとは言えませんでした。
忌ま忌ましい思いだ。わたしがとてもいやな奴だってこと、みずきさん感づいたかな。
みずきさんは太陽で、わたしはモグラだ。
みずきさんのいる高度まで跳べもしないくせに、わたしはずっとみずきさんがうらやましくて仕方なかったんです。
怠けて「今日も走れなかった」をつぶやくたび、自分を呪うしかできなくて、「なんでわたしはみずきさんじゃないんだろう」っていつも引き合いに出してきました。
みずきさんご本人、というか、みずきさんという象徴なんです。偶像崇拝なんです。
例えば熱情、例えば慈愛、例えば誠実、例えば鋭意、例えば精錬……。
数えきれないぐらいの、ポジティブな花言葉の結晶みたいなものが、わたしにとってのみずきさんです。
でもそんなの、つらいじゃないですか。
ほんとはちょっと、やなところもあってほしいじゃないですか。

いやなところを見つけたくて、「午後の予定はどうされるんですか」って聞いた訳じゃないけど、「何もないよ」の言葉を待っていた訳じゃないけど、みずきさんに我々の部屋に来ていただけることになりました。
「後頭部を剃ります」をエサに。

みずきさんもまじえて、3人で断髪式をすることになりました。

みずきさんが、髪を剃ってくださったりビデオをまわしてくださったりしました。
わたしはスパイになった気で、色々探り出してやろうと思っていたのに、みずきさん大人だから全然乗ってこないでやんの。
みずきさんやさしかったです。
いやなところとかもちろんなくて、落ち込む。

髪、切ったのに。
断髪、したのに。

わたしは、みずきさんへの思いを断ち切れないままでした。

みずきさんが帰ってから、カーテンを閉めて、体育座りで、部屋の端っこで、反省会。

「みずきさん、思ってた人じゃなかったね。」
「みずきさん、ほんとのいい人だったね。」
「わたしたち、勝ち目ないね。」
「一生敵わないんだろうね。」

一生、叶わない思い。
なりたかったけど、なれなかった永遠の憧れ。

「みずきさんにも、わたしたちにとっての『みずきさん』的な人っているのかなあ。」
「さあ。もう、神とか、太陽ぐらいじゃない?」
太陽か……。眩しくて見れない……。

みずきさん最高、最強説。

なんかみずきさん公人でもないのにこうして名前出して恋文書くってどうかしてるけど、
言わせてください。

みずきさん、時には弱ることもあるでしょうが、わたしにとっては、強いみずきさんだけが『みずきさん』です。
強者の抱える孤独はわたしにはわかりようもないけれど、いつまでも輝いていてほしいです。
顔をめいっぱい上げて、アンダーグラウンドから、湿っぽく応援致しておりますので……。


いっしょに過ごした時間を宝物に生きて参ります